なぜ、会議で宿題(課題)を明確にし、一緒に品質向上を目指すことができたのか。それは、なんとしても商品化にこぎつけたい、しかも「本格シャープ」をつくりたいということが両部署の共通の思いだったからだ。その原点があったからこそ、商品開発部は厳しい注文をつけたし、開発チームはそれを受け入れたうえで改善策を話し合うことができた。

「芯が回ることだけを強調して、おもしろシャープとして売り出すのは簡単だったんです。たとえばノック部分にフラッグを付けたり、中の軸に絵柄を描いてそれが回るのを楽しむといったような商品。でも、それでは一部の人が喜ぶだけで、広くは受け入れられなかったでしょう。あの会議が大きな分岐点でした。ちなみに、当時の試作品は今から思えば20点くらいの代物です(笑)」(中山さん)

会議の成果として、80点分の上積みが生まれたのである。

どれだけ書き味を向上させることができるか。中山さんと斉藤さんは二人三脚で課題に取り組んだ。幸い、本社から中山さんのいる横浜研究開発センターまでは1時間足らず。斉藤さんは週に2回は通って、こまめに打ち合わせを繰り返す。

「歯車の形状や歯の数、プラスチックの材質や部品の組み方などを変えて試作品をつくり、その都度斉藤に試してもらって意見を聞いて、あーでもない、こーでもないって。延べで5000~6000本はつくりました」(中山さん)

通常のシャープペンシルの倍、23個の部品で構成される回転シャープ。微妙なさじ加減で書き味は変わっていく。

「ウルトラCの改良点というのはなくて、細かい調整の繰り返しでした。ゆき詰まって途方に暮れることもありましたが、目指すべくは本格的シャープだという軸だけはぶれなかったので、妥協せずに書き味を追求できました」(斉藤さん)

(的野弘路=撮影)