「体が覚えている」状態になるために大事なのは「脳」

私が以前スキー1級検定を受けたときには、滑る前にコブや斜面の広がりを眺めて、「ここはこう滑る」と自分の滑るラインとその各所のかわし方をイメージしてから滑るようにと指導を受けた。このほうが、いきなり体当たりするよりもはるかに滑りやすく、万が一バランスを崩したときにも素早く対応ができるものだ。

他のスポーツでも同様だ。例えば、サッカーをイメージしてみよう。シュートを決める場面ばかり思い描くのではなく、一連のプレーのイメージを頭に思い浮かべる。ペナルティーエリアの手前でボールを受けて、ドリブルで相手チームの1人をかわしたら、キーパーの脇を抜けてシュートを打つ……と、こんな具合だ。

メンタルリハーサルが生かされているのはスポーツばかりでない。ピアニストの辻井伸之さんは、目が見えないながらも素晴らしい演奏をし、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した。子供の頃には、コンクールで金賞を受賞するところまでリハーサルするなど、心理的に“勝てる”という訓練をしていたそうだ。

では、これを私たちのビジネスの場に応用してみよう。

大切なのは「こうありたい自分」を思い描くこと

「メンタルリハーサル」では、あらかじめその場面を思い浮かべ、そのイベントの流れを頭の中でなぞっておく。慣れない環境でトラブルがあったときにも、どう対応するかを想像し、うまく切り抜けたイメージを作りあげておくといい。これで、突発的に起きた問題にもすぐに対処できるようになる。

まずは、できるだけ「本番に近いイメージ」で「ポジティブな場面を思い浮かべる」と効果が高い。大切なのは「こうありたい」という姿を具体的に思い描くこと。例えば、人前で話す自分をイメージしながらプレゼン内容をシミュレーションし、質問に答えられないときにも上手に対応して商談をまとめる……など。

現実の場面同様に頭の中でリハーサルをするのは、案外と労力がいるものだし、体を動かさない分慣れないと難しい作業でもある。しかし実際に体を動かす時とは違う思考をすることで、むしろ自分のやるべきことが整理されてくるだろう。

もう一つ、自分を落ち着かせるために効果的な動作として、一部の心理学説で「アンカリング」と呼ばれるものがある。

これは成功のイメージを想起させる一連の動作を決めておき、その通りになぞるというもの。例えば、イチロー選手が決まった足からバッターボックスに入り、バットをかまえて袖をひっぱる一連の動作や、ラグビー日本代表の五郎丸歩選手がボールを蹴る前の決まった動作などは有名だ――。