6月1日には、福岡市中央区で大型の再開発事業に着手している。これは昨年3月に営業を終えた商業施設「ホークスタウンモール」跡地の再開発で、「福岡ヤフオク!ドーム」に隣接する好立地だ。施設名は「マークイズ(MARK IS)ももち」。ライブハウスや映画館など150~200のテナントが出店し、延べ床面積はホークスタウンの1.6倍の大型施設となる。開業予定は18年秋だ。また跡地には2棟の分譲タワーマンションも建設する。2棟ともに地上28階、地下1階建てで、総戸数は578戸。完成予定は19~20年度となっている。

丸の内から遠く離れた福岡。しかも、ライバルの三井不動産に比べると、三菱地所は大型複合再開発の実績は少ない。なぜそこまでして投資を急ぐのか。それは、この再開発こそが、中期計画での「ビジネスモデル革新」の象徴だからだ。

福岡市中央区で「マークイズ(MARK IS)ももち」の大型の再開発事業に着手。

問われる吉田社長のリーダーシップ

中期計画の目玉である1000億円の投資枠は、M&A(企業の合併・買収)に加え、地方空港の運営委託(コンセッション事業)やカジノを主体とした総合型リゾート(IR)への投資も視野にある。その点、福岡はアジアからの玄関口として旺盛なインバウンド需要が見込める土地であり、さらに福岡空港は19年度に民営化の予定で、同社は入札へも意欲を示している。運営委託も期待できる。同社は既に福岡市の繁華街・天神で大型商業施設「イムズ」を運営しており、福岡圏全体での事業展開を狙っている。

これまで三菱地所の事業基盤は、丸の内周辺に保有するビル群からの賃料収入だった。その入居企業の多くは三菱系で、丸の内は「三菱村」とも呼ばれる。しかし、そこに安住するだけでは成長は望めない。吉田社長は、少子高齢化の進展など経済環境の大きな変化が「新たな価値観を生む」とし、「従来と違った事業モデルの構築が必要」と強い意欲をみせる。今年4月、新規事業を開発する「新事業創造部」を社長直轄としたのもその意思表示だ。

ただし、全方位で進める攻めの事業展開にはリスクもある。現在、都心のオフィスビルは建設ラッシュで、18年以降には大量供給が見込まれている。2020年の東京五輪の後には景気の落ち込みも懸念される。投資家のなかには「丸の内の大家」として安定した収益と手厚い還元を望む声も根強い。いったん勢いがついた振り子を止めるのは容易でない。「時代の変化を先取りして価値創出の新たなステージへ」。中期計画の表紙にはそうある。歴史的なビジネスモデル改革は、すでに始まっている。もう後戻りはできない。10年後、「丸の内の大家」の名は残っているだろうか。

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