働き方改革は新しい郊外から
現在、ようやく在宅勤務を本格化していこうという動きがある。郊外には、毎日の通勤には遠すぎるが、在宅勤務の場所としては環境がよいという地域もある。そうした地域は在宅勤務の適地として訴求し、新たな人口を引き込んだほうがいい。
高齢者だって、家の近くに働く場所があれば、たとえ車椅子暮らしであっても、できる仕事もある。それは高齢者の「生活の質」を上げるし、収入も増やせる。
また現代は、多くの就業者が「制約社員」の時代である。昔の男性のように無制約に働けない。家事も育児も介護も妻に任せて、100時間以上の残業も休日出勤も単身赴任も突然の出張もできた無制約社員の時代ではないのだ。女性には子育てがあり、男性もイクメンが求められ、男女ともに親の介護もありうるし、高齢者は体力的に毎日働いたり、残業したりできない。みんなが制約を持って働くのだ。
逆に言えば、制約社員を前提にすれば、ほとんどの人が働くことができるのである。無制約社員は都心のタワーマンションに住む人たちに任せて、郊外はワークライフバランスのとれた制約社員の街になったほうがよい。新しい働き方(ぶどう酒)は新しい住まい方(革袋)に入れたほうがよいだろう。
ウォーカブル+ワーカブル(歩いて楽しい+働いて楽しい)な街にする
ベッドタウンが在宅勤務地となることで、そこは言わば「都市化」する。単なる田園郊外住宅地ではなく、自然の豊かな「田園」「庭園」に囲まれた多機能的な「都市」という意味での、本来の「田園都市」にようやくなるのだ(郊外の都市化については『東京は郊外から消えていく!』で最初に提案した)。
これまでは、都市的機能を都心にすっかり任せて、郊外のほうは、ただ買い物をして、食べて、寝て、子育てをするだけの街をつくってしまった。これが戦後の郊外の弱点であり、持続可能性を持たなかった大きな原因だ。
だから今後は、郊外に「働く」という機能を付加し、そこから、休む、出会う、交流する、発想する、考える、創造する、といった機能を持った都市へと発展させていき、単なるベッドタウンではないという状態に持っていく必要がある。自然の豊かな郊外の中で昼間働く人がたくさんいる状態にするのだ。
住みよい街の一要素はウォーカブル(walkable:楽しく歩ける)であることだが、そこにもう1つの要素としてワーカブル(workable:楽しく働ける)であることを追加したい、というのが私の提案である。
ちなみに2011年に私が行った「東京圏調査」で、働いてみたい地域を郊外居住地別に集計したところ、最も多かったのはつくばエクスプレス沿線居住者であり、沿線に住む人の70%が沿線で働いてみたいと回答した。
2位はさいたま市で63%、以下、千葉市が57%、横浜東部(海側)が56%、武蔵小杉のある南武線が46%、東急田園都市線沿線が45%、千葉県湾岸が41%、埼玉南部が37%、中央線多摩地域が36%、松戸・柏が35%という結果であった。
浦和、千葉、横浜という県庁所在地がある地域が2~4位を占める中で、つくばエクスプレス沿線が1位になったのは注目に値する。当時の私にはこの数字の意味が十分理解できなかったのだが、今回流山市を取材してみて納得した。
つくばエクスプレス沿線は「郊外のサテライトオフィスや自宅などで働きたい」という人も26%でダントツに多く、「もっと郊外で働き口、雇用を増やすべき」だという意見も26%で最多だった(『東京は郊外から消えていく!』参照)。