森長官の求める地銀のあり方とは、「銀行は創意工夫を行い、地域に役立つ融資を行い、地方創生を推し進めること。融資は、原則として無担保・無保証であるべき」というものだ。この方針は、もちろん安倍晋三政権が進める地方創生に足並みをそろえた、むしろ安倍政権のリクエストに応えたものだ。事実、安倍政権の地方創生政策の柱のひとつとして、地銀による地方活性化が入っている。

頼みの「カードローン」も自粛へ

しかし、地銀業界には、「一地銀が頑張ったからと言って、地方が創生するような生易しいものではない。少子高齢化、地方の過疎化を放置したこれまでの政府の無策を、地銀に押し付けるのはおかしい」(地銀役員)との声は多い。

また、銀行業界はマイナス金利下での収益対策のひとつとして「カードローン」を積極的に推進した。カードローンは、マイナス金利下にあっても貸出金利に相応の金利が適用でき、さらに、その多くが無担保・無保証であるため、森長官の求める「無担保・無保証の融資」という条件にもマッチした。

だが、今度は消費者団体から火の手が上がった。70年代後半から80年代半ばまでの“サラ金地獄”が連想されたのか、カードローンの積極的な推進の自粛を求める声が高まった。これに、金融庁も同調したことで、結局、銀行業界は自粛方向に方針を転換せざるを得なくなった。

「銀行は収益源を失うことになる」

こうした状況下、「金融庁が進める無担保・無保証融資の推進や、新規事業に対する積極的な融資というのは、大きな貸し出しリスクを内包している。有価証券運用におけるリスクを金融庁は厳しく指摘するが、金融庁が進めるように指導しているこれらの融資も相当のリスクがあり、危険性は変わらない」(別の地銀幹部)と反発する。その背景には、金融庁から厳しい指導が続けば、「銀行は収益源を失うことになる」(地銀幹部)との危機感がある。

日銀が4月に発表した「金融システムレポート」でも、「預貸利ザヤの低下傾向が続く中で、金融機関が収益維持の観点から過度なリスクテイクに向かうことになれば、金融面での不均衡が蓄積し、金融システムの安定性が損なわれる可能性がある」とし、そのうえで、「収益力の低迷が続き、損失吸収力の低下した金融機関が増えれば、金融機関全体でみた金融仲介機能が低下して実体経済に悪影響を及ぼす可能性も考えられる」と指摘している。

地銀の中からも、「これ以上に収益力が低下するようであれば、地域経済にとって十分な融資を実行する体力がなくなる可能性がある。地銀として森長官が期待する地方創生の柱の役割を果たせなくなる」(地銀幹部)という悲壮な声が聴かれる。