1日4時間残業でうつ症状が倍に?

長時間労働が悪影響を及ぼすのは、身体にかぎった話ではない。精神も同様である。

うつ病やPTSDなど、精神障害に関する労災申請件数は、近年増え続けており、2015年度、過去最多の1515件にものぼった。10年前の2005年度と比べると約2.3倍だ。精神障害の労災申請や「過労自殺」が増えたことから、2011年、厚労省は認定基準を設けた。精神障害が発病する直前の1カ月に約160時間以上、3週間に約120時間以上、もしくは直前の2カ月に連続して月平均約120時間以上、3カ月に連続して月平均約100時間の時間外労働を行った場合、業務による心理的負荷が強いとされる。

月160時間の残業というと、勤務日数20日として単純計算して1日8時間。毎週土日に8時間ずつ働いたとしても、平日は毎日4.8時間残業していることになる。しかし実際、精神障害を招くのは、長時間労働だけが要因ではなく、長時間労働+職場環境の強いストレスで発病するケースが多い。たとえば転勤や転職で不慣れな仕事に就いたり、営業ノルマの押し付けといったパワハラを受けたりするような場合だ。こうした強いストレスを招く出来事があった前後、恒常的に月100時間程度の時間外労働を行っていた場合も、心理的負担の強度を高める要素として評価される。

イギリスで約2000人の自治体職員を6年近く追跡した調査によれば、うつ症状を呈した割合は、1日に残業なしで7~8時間働く人がうつ病になる確率を1とすると、1日11~12時間働く人では、2倍以上に跳ね上がった。1日4時間の残業だとして、月に20日働けば、月80時間ということになる。

こうして見ていくと、身体においても精神においても、月80~100時間の残業は健康に害を及ぼす、ひとつの目安になると言っていいだろう。前出の脳・心臓疾患の労災認定基準が作られたのが2001年。古い基準ではあるが、今でも十分通用するのだ。

月20日働く人が100時間残業するのであれば、1日5時間の残業となる。9時に出社して18時に帰る勤務時間なら、毎日23時に帰社するのは健康のリスクを高める可能性がある。もし土日のうち毎週どちらか8時間働くのであれば、平日に毎日3.4時間の残業という計算になる。ちなみに「平成28年版過労死等防止対策白書」によれば、2015年、月80時間を超えて残業した労働者がいる企業の割合は、22.7%にも及んだ。冒頭に述べた残業の上限規制による効果が期待されるところである。