営業部は置かずに、現場の困りごとを拾う

こうした精緻なめっきが施された部品があるからこそ、作動に支障をきたさずに、エレクトロニクス製品はその役割を果たせます。ではなぜ、このような開発技術が養えるのでしょうか。

「弊社は、他社では断るような“できるかどうかわからないこと”をするのがイノベーション、という姿勢で開発を続けてきました。化学、電子部品、医療品、繊維などのメーカーから、『できませんか』『やれませんか』という“困りごと”の問い合わせが年間に1000件あります。そのうち試作につながるのが300件。仕事として成立するのが30件、5年続くのが3件でしょうか。いわば我々の仕事は“千三つ屋”です(笑)」

「千三つ屋」は、もともとはネガティブ用語。「1000件のうち3件しか本当の事を言わない人たち」という意味で、昔は不動産屋などがそうした職業と言われました。

「確率は低くとも、困りごとが持ち込まれなければ最後の3つは生まれません。でも、それで十分なのです。1個の値段は1円に満たなくても、ナノめっきが必要な部品の受注数は桁が大きいですから」

同社にはいわゆる営業部署がありません。すでに1000社の取引先がありますし、毎年、数回の展示会に出向いて話をすれば、新規の「依頼案件」が無数にあるので、無理に営業する必要がないのです。

「たとえば、ニッケルにめっきをしてほしい、とおっしゃる企業があったとします。でも、一口にニッケルにめっきをする、といっても、業界によって全く異なる使い方がされています。ある企業は硬いニッケルが欲しいと言い、別の企業は軟らかいニッケルが必要だと言う。あるいは、半田が濡れないニッケルを欲している企業もあります。しかも、それを付ける素材がそれぞれ違う。ですから、すべてカスタマイズするしか解決方法はありません。このように、ニッケルにめっきをすると言っても、さまざまなニーズがありますから、展示会では求めている技術を持ち、かつ実現できる企業を探している企業から、本当に多種多様な相談をされます。そうしたやりとりからも、いろいろなヒントを得られるし、新しい取引先と出会う機会も十分にあるんです」