ニトリやイケアには「提案」がある

――花王グループカスタマーマーケティングについてはいかがでしょう。

「はっきり言ってこの40年以上同じ形でやってきた。もちろん、流通さんに育てていただいた感謝の気持ちは尽きません。しかし、今後50年、100年同じようにやれるかというとそれは無理。スーパー中心だったものが、ドラッグストアができ、コンビニができ、いまはEコマースもある。変化は必要なんです。大切なのは本質的な『価値伝達』をしっかりやる点。ここはブレません」

――それは、海外市場でも活かせるものなのでしょうか。

「直販体制は、日本における花王の強みを増強させた大きな手段でした。しかし、情報伝達の仕方が変化するなか、『価値伝達』の考え方を根本的に変えたいんです。新たな提案方法をカスタマーマーケティングには要求していますが、彼らもかなり辛いと思いますよ」

――海外の組織はどのような体制が理想ですか。

「海外ではそのまま直販ではなく、卸を通すにしても、消費者への価値伝達の方法はたくさんあります。直接Eコマースで勝負することもありえます。中国のメリーズでは、後発で販路を構築できませんでしたが、新たな流通チャネルができたことで上手くいった。そんなチャレンジをしていきたい」

――若手社員の玉置さんはグローバルに活躍したいと語ってくれました。どんな人材が求められますか。

「最も必要になってくる人材は、ライフスタイルをデザインする『コーディネーター』だと思っています。これまで、人が生活するうえで、起きてから寝るまでのいろいろな場面の製品を提案してきました。これからは商品一つひとつではなく、ブランドや製品を超えて、トータルでのライフスタイルを提案したい。ニトリさんやIKEAさんの店舗を歩くと、ライフスタイルを提案しようという意思をとても感じるんですね。その発想があれば、花王の製品も変わってくるのではと考えています。昔は経営メンバーがやろうとしましたが、より専門的に、社内外から人材を登用して提案していきたい。私はこれを『高度な付加価値提案』と言っています。チャンスはたくさんあると思うんです。やりたいことがたくさんあってワクワクしていますよ」

一つひとつ積み重ねる堅実さから、さらに価値を生み出すワクワクへ――。花王らしさは、たしかに変わりはじめている。

しかし、チャレンジが問われるのはまだまだこれから。シティグループ証券の三浦信義ディレクターは、「現状のままではK20の達成は厳しい」と分析する。

「海外の事業を伸ばすには、成功例をいかにつくるか。そのためにはメガブランドの存在が欠かせません。中国でメリーズが成功してその足掛かりになる兆しが見えています。しかし、本丸は化粧品事業。資本効率の高い化粧品で成功してこそ、市場は評価してくれるでしょう。ビューティ分野に強みを持つカネボウとシナジーを生むなどの改革を期待したいですね」

大転換の結果が出るのはこれからだ。

花王 社長 澤田道隆
1955年、大阪府出身。81年大阪大学大学院工学研究科修了後、花王石鹸(現・花王)に入社。2003年サニタリー研究所長、08年取締役執行役員を経て12年より現職。休日には孫のオムツも替える。
(撮影=岡田晃奈、市来朋久)
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