社畜的な状況をギャグで笑い飛ばそうとする作品がある一方で、敢えて社畜のポジティブな面にスポットを当てる作品も登場している。『商人道』(細野不二彦/小学館/2014~15)と『ハートボール』(原秀則・風巻龍平/小学館/2015~17)は、共に「マグロ」と揶揄される、常に働き続けずにはいられないモーレツサラリーマンが主人公。どちらも情熱的に仕事に没頭することの魅力を真正面から描いており、サラリーマンの矜持を感じさせる良作だ。

社畜を肯定する作品として同時代性を最も感じさせるのは『社畜人ヤブー』(那智泉見/PHP研究所/2015~16)だろう。タイトルや主人公の名前こそ昭和の奇書『家畜人ヤプー』のパロディになっているけれど、漫画の合間にビジネス書の紹介コラムを織り交ぜており、読後感は自己啓発書に近い。

『社畜人ヤブー』(那智泉見/PHP研究所)

主人公の薮隣一朗は、「社畜たるもの、常に体を張り、恥を捨て、その仕事に尽くすべし」をモットーとし、「サービス残業は会社へのおもてなし」と断言する馬車馬界のエリート。実は売上トップの優秀な営業であり、仕事では猛烈な下積み、つまり「守破離」の「守」の段階が必要であることを後輩たちに身を以て理解させる。若い社員は藪に触発される形で、慣れない会社生活に順応し、成長していく。

どんなにつらい仕事であっても積み上げてきたもの全てに価値がある、という下積み必要論は、概ね正論だ。しかし一歩間違うとブラック企業賛歌になりかねず、この作品に十分な説得力があるのかどうかは、読者各自が実体験を通して判断するしかないだろう。

「無職を殲滅せよ! 社畜界のトップエリート、閃光のワーカー・ホリック!」

『働かないよ!ロキ先輩』(柳ゆき助/KADOOKAWA/2015~16)は、敢えて寓話的なホワイト企業を舞台とすることで、ブラック企業の非人間性を対照的にあぶり出そうとする。

長時間労働による過労で倒れ、大手エリート企業を解雇されてしまった主人公は、ロキと名乗る謎の美青年に導かれ、片田舎の小さな印刷会社に再就職する。そこでは社員がほとんど働かずに、低賃金で好き勝手にやっていた。主人公は社畜意識を強く残すため、自由過ぎる先輩たちに苛立つが、やがて「自分のほうがおかしいのかも?」と自省しはじめる。

「ロキ」とは、北欧神話に登場する悪戯好きの神の名前で、この漫画では北欧神話のさまざまな意匠が多用される。過酷な労働環境の大企業とは対極にある、まさに神話的な場所に避難することで、「エリート落ち」を恥じていた主人公は社畜意識を浄化していくのだ。

『高機動無職ニーテンベルク』(青木ハヤト/KADOKAWA)

同じように対立構造で社畜を描いた漫画としては、『高機動無職ニーテンベルク』(青木ハヤト/KADOKAWA/2014~)という、ガンダムのパロディSFもある。「社畜対無職」をうたい文句とする本作は、どんなクズでも一人前の社畜に仕上げるデスマーチ軍に対する無職同盟のレジスタンス闘争を描いている。

シャアを模した「人の3倍のノルマをこなす社畜界のトップエリート」が登場するほか、絶妙に“本家”を連想させる各キャラクターのセリフ回しなど、パロディとしてのクオリティはかなり高い。一方で、人間らしい労働環境を取り戻そうと問題提起をする要素も垣間見られる。