お酒が弱いことも武器になる
ジョッキをぶつけ合った直後の発言だ。普通なら座がしらけても不思議はない。同席していた越山裕之常務取締役は、1年前の様子を思い出しながらこう話す。
「ビール会社の方はたいていお酒が強い方ばかりなので、最初は驚きました(笑)。でも、お酒を飲む量よりも、酒の席でどうコミュニケーションを取るかのほうが大事です。それに、江森さんは『でも、そのぶん食べるのが好きなんです』と、本当に美味しそうに食べるんですよ」
アフターファイブの会食とはいっても、あくまでも江森さんと越山常務にとっては仕事の延長である。会話の内容は、6、7割がキリンビールの新商品の説明や売れ行き、神戸や尼崎周辺の繁盛店の情報といったことになるという。
宴会を盛り上げるというと、大勢が集まってのドンチャン騒ぎ。あるいは、歌って、踊って、楽しければいいと考えがちだ。プライベートなら、それでもかまわないだろう。けれども、ビジネスに直結するとなれば、そこで何らかの成果が期待されることはいうまでもない。
「得意先の経営者や営業スタッフに、せっかく時間をいただいているわけですから、ただ単におしゃべりして終わりでは申し訳ない。やっぱり『江森さんと会ったら得したよ』といってもらえる情報は用意していくように心がけています」
越山酒販と江森さんが一緒に飲む回数は、週に3、4回で、3時間以上になることが多いという。ビール以外では焼酎も定番だ。率先して水割りを作る江森さんは、自分のグラスの中身はミネラルウオーターに氷だけにしている。それをさりげなくできる江森さんの流儀に越山常務は感心する。
また、お酒が弱いことの効用もあるようだ。
「いくらアルコールに強くないといっても、ビール1杯ぐらいなら前後不覚にはなりませんし、味覚もはっきりしている。だから、江森さんの酒や料理に関する意見が的確なんです。私や社員が『なるほど』とうなずくようなコメントをしてくれます。こうなるともう、お酒が弱いのも逆に武器になりますよね(笑)」