「組織一体感・終身雇用・年功賃金」に執着するから休めない

▼有給休暇の取得を阻む要因3:休暇取得を阻む日本型雇用慣行

「1:休暇取得に伴う強い罪悪感」、「2:休めるのに『休まない』男性管理職」では、従業員個人が有給休暇の取得がしづらいと感じる代表的な理由を述べました。

では、なぜそのような事象が生じてしまうのでしょうか。

独立行政法人労働政策研究・研修機構「第7回勤労生活に関する調査」(平成28年9月)によれば、調査を開始した1999年以降、「組織との一体感」(88.9%)、「終身雇用」(87.9%)、「年功賃金」(76.3%)を支持する人の割合は、いずれも過去最高の水準となっています。

加えて、ひとつの企業に長く勤め管理的な地位や専門家になるキャリアを望む人の割合は50.9%と過半数を占め、1999年以降、年々増加傾向になっています。

これらのことからは、未だに多くの人が、日本型雇用慣行を望んでいる実態が窺えます。職場で休暇の取得がしづらいということと、この日本型雇用慣行は、決して無関係ではないと考えます。

例えば、上記の調査結果で挙げられていた「組織との一体感」の重視は、個性よりも調和が重視され、結果として、個人ではなくチームの成果が重視されることにもなります。チームでの成果を重視すれば、チームで柔軟に対応し成果を上げることが求められ一方で、個人の業務分担が曖昧になってしまうことはやむをえません。休暇を取得する上でも、チームへの配慮が求められることになります。

また、「終身雇用」や「年功賃金」の重視は、定年まで現在の職場で少しでも波風を立てずに居心地良く仕事ができることを優先する心理につながります。職場の人間に対して、過度に気を遣うようなるのもこのためです。特に、管理職ともなれば、「年功」で得た現在のポジションや給与水準を何とか維持し続けようとして、会社からの人事評価に極端に敏感となり、結果的にできるだけ会社を休まず、働こうとする態度を示すことになることが理解できないわけではありません。

多くの人が日本型雇用慣行を望み、日本型雇用慣行が定着しつづけている実態が、結果として、休暇の取得を阻む組織風土を作り出しているのではないでしょうか。それは、休暇の取得をしやすい職場づくりが、個人の努力だけでは難しいことを意味しています。

働き方改革が、一部の個人の努力だけでは実現が難しいからこそ、残業時間の上限規制やプレミアムフライデーの導入といった政府や企業サイド主導の取り組みに頼らざるをえないという面は否定できないでしょう。

ただ、本質的な問題(日本型雇用慣行を脱することができないこと)を放置すれば、職場では、非正規社員などの弱者へのしわ寄せが増大し、ホワイトカラーでは、実質的な持ち帰り残業が増えるだけで、職場のストレスが高まるだけになりかねません。

有給休暇取得を阻むのは、無意識のうちに企業や個人に内在する「変化することに対する抵抗感(現状維持への執着)」のように思えてなりません。

榎本久代
日本総合研究所にて人事・組織コンサルティング業務に従事。現在、リサーチ・コンサルティング部門のマネジャー。近年、女性活躍推進をテーマに管理職及び女性社員の意識改革研修等を担当。
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