これは「差別」か「区別」か

SNS上の反応の中には、「子育ての延長なのだから、保育士はもともと女性の方が適任。今までだって保母さんだけでやってきたのに、なぜわざわざ男性保育士に女児を扱わせるのか。嫌がる人がいるならやめたほうがいい。それは差別じゃなくて区別でしょ」というような主旨の、無邪気で屈託のない意見も散見される。特にまだ子育てに現実味のない、若い世代に顕著だ。

だが「これは差別じゃなくて区別」というダブルスタンダードに疑いを持たない人は、本人が男性であれ女性であれ、翻って同じ基準が自分に適用されることに同意署名していると、気付いているだろうか。例えば女性は、「女子学生率」を意図的に抑えてきた医学部などが、明らかな参入障壁を設けて自ら数を制御しておきながら、「医者は体力も知力も必要で女には不向き。数が少ないのがその証拠で、歴史が証明している」としてきたかつてのもの言いを、「区別」として受け入れるのだろうか。

熊谷市長はツイッター議論の終盤で、こう締めくくっている。

「千葉市の男性活躍推進プランに対するご意見を見ても、男性保育士に対する性差別を認識せず『差別ではない区別だ』とする人が多くはないものの一定数居ることが分かります。女性の場合と異なる基準になっていることをご本人も気付かない状況に、男女共同参画の真の理念を社会が共有すべきと感じます」

熊谷氏がツイッターで投げかけた言葉は、大きな波紋を生んだ。だが、その波に洗われたことで、私たちが既存の社会で生得的に身に付けてきただけの印象論から脱することなく、根本の性差別に疑いを持たずにいる姿勢があらわとなったことにも気付きたい。

河崎環(かわさきたまき)
1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭学園中高から転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、20歳の長女、11歳の長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。
【関連記事】
保育施設での死亡事故、なぜ起こる?
「保育園落ちた日本死ね」の怒りよ届け
“保護者の視線”が、保育事業者の質を変える
安倍さんが今すぐ取り組むべき「保育士不足問題」
認可と認可外の保育料、本当はどのくらい違う?