なぜテスラのEVは「専用保険」なのか

実はアメリカでも、カリフォルニア州では「PHYD型」のテレマティクス自動車保険は未発売です。同州にある「シリコンバレー」は、世界最大のIT企業の集積地ですし、自動運転実験車グーグルカーも同州生まれです。それでもカリフォルニア州は、09年にテレマティクスによるデータ収集は走行距離に限る、と定めています。目的地や走行ルート、同乗者といったプライバシー情報が流出するリスクから利用者を守ることが目的です。IoTの普及により、様々なデータ収集が可能になることを見越していたわけです。

現在のテレマティクス保険では、自動車本体に「ブラックボックス」や「ドングル」と呼ばれる、走行距離や時間、運転技術のデータ収集のための通信機器を設置するのが一般的です。ドライバーが持つスマートフォンのアプリによる新たな方式も登場しました。しかし、将来的には自動車そのものに通信機能が備わる「コネクテッドカー」が主流となり、リアルタイムの常時監視が可能になるはずです。

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コネクテッドカーの世界市場

車がすべてコネクテッドカーとなれば、事故防止や渋滞予測、さらには自動運転など様々なサービスが提供されます。ただし、それは同時に、インターネットを通じて、運転状況を常に外部から監視できることを意味します。革新的な技術の登場は、これまでになかったプライバシー問題、あるいはプライバシーの変容をもたらすことになります。

保険会社の役割も変化するはずです。コネクテッドカーが一般的になれば、保険の主導権は、保険会社から自動車メーカーに移ります。テレマティクス保険料を算出する「運転状況」のデータは、保険会社ではなく、まず自動車メーカーがもつことになるからです。すでにそうした動きはあります。電気自動車メーカーのテスラモーターズは、提携保険会社を通じ、オーストラリアと香港で、テスラ車専用自動車保険を発売しました(※2)。 テスラ車には「オートパイロット」とよばれる自動運転機能が標準搭載されているなど特殊性が高いため、既存の自動車保険では十分な対応ができないことが理由です。テスラは、自社で収集したデータをもとに、独自の保険を共同開発したわけです。将来的にはほかの自動車メーカーも保険事業に関わるようになるでしょう。

テレマティクス自動車保険というと、運転監視ばかりに目が行きがちですが、本来のIoTは「双方向」です。監視で保険料が安くなるというだけでなく、事故を起こさない運転をするよう働きかけることができるのです。昨年、「ポケモンGO」が大流行しました。架空のキャラクターを集めるために、多くの人が現実世界を歩き回りました。「ポケモンGO」を提供することは、運営会社のコントロール下で人を歩かせることであり、また散歩の習慣のなかった人たちを健康的に歩かせることでもあります。

「コネクテッドカー」や「ロボットカー」が普及するにはまだ時間が必要です。けれどもすでに私たち自身、スマホによって繋がる「ホモ・コネクタス」なのです。IoTの進展で人も含めすべてのモノがネットに接続されれば、生命保険も火災保険も「テレマティクス保険」になります。従来の保険のありかたをすっかり変えてしまう「保険2.0」がはじまっているのです。これからの保険では「事故後のサービス」よりも「事故を起こさせないサービス」が優先されるようになるでしょう。

保険業界のプレーヤーも変化していくでしょう。ITエンジニアやデータ解析専門家、さらには人間の思想と行動を考察する哲学者や倫理学者の知恵も求められます。現にドイツ運輸省は、「ロボットカー」の法律準備のためこれらに神学者を加えた委員会を設けています。日本でも本質的な議論が必要です。

注1:損害保険料率算出機構は、2016年11月24日に金融庁長官への届出を行い、12月9日に適合性審査結果通知を受領したと発表している。 http://www.giroj.or.jp/service/ryoritsu/jsiryo201612.pdf
注2:オーストラリアのテスラ車用自動車保険「InsureMyTesla」のウェブサイト https://www.tesla.com/en_AU/support/tesla-insurance-australia