お金に無頓着な漁師は、本当に幸福なのか?

幸福になるために、必ずしもたくさんのお金は必要ありません。

前回、僕は、古今東西の人間が人種や性別の差なく「幸せだ」と感じるのは、「セックス」「おしゃべり」「食事」「リラックス」という、ごくありふれた日常生活の行為だ、というお話を大学の研究結果を基にしました(参照:富裕層の哲学「幸福度は、お金ではなく、“昼と夜の営み”で決まる」http://president.jp/articles/-/21191)。

幸せになるのに、お金はそんなにいらない。

この“驚くべき”事実は「メキシコの漁師とMBA旅行者」の話を彷彿させる内容だと僕は思いました。

この話の元となったのはノーベル文学賞を受賞したハインリヒ・ベルの書いた「生産性低下の逸話」で、これが改変されたものがネットに出回っています。以下はその概要です。

▼「生産性低下の逸話」ダイジェスト▼

メキシコのある田舎町。海岸に小さなボートが停泊していた。メキシコ人の漁師が小さな網に魚を獲ってきた。その魚は新鮮でなんともイキがいい。それを見たアメリカ人旅行者は、こう尋ねた。

「すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの?」

すると漁師は「そんなに長い時間じゃないよ」と答えた。旅行者が、

「もっと漁をしていたら、もっと魚が獲れたんだろうね。惜しいなぁ」

と言うと、漁師は、自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だと言った。

「それじゃあ、余った時間でいったい何をするの?」

と旅行者が聞くと、漁師は、

「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって……ああ、これでもう一日終わりだね」

すると旅行者はまじめな顔で漁師に向かってこう言った。

「ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した人間として、あなたにアドバイスしよう。いいかい、あなたは毎日、もっと長い時間、漁をするべきだ。それで余った魚は売る。お金が貯まったら大きな漁船を買う。そうすると漁獲高は上がり、儲けも増える。

その儲けで漁船を2隻、3隻と増やしていくんだ。やがて大漁船団ができるまでね。そうしたら仲介人に魚を売るのはやめだ。自前の水産品加工工場を建てて、そこに魚を入れる。

その頃にはあなたはこのちっぽけな村を出てメキシコシティに引っ越し、ロサンゼルス、ニューヨークへと進出していくだろう。あなたはマンハッタンのオフィスビルから企業の指揮をとるんだ」