医療・介護が地方を活性化する理由
いま、医療・介護の世界では「2025年問題」が取り沙汰されています。8年後に、団塊の世代が75歳以上になり、後期高齢者の仲間入りをするからです。それに備えて、病院はもとより治療後のリハビリや介護を担う施設の一体経営が、国および地方自治体にとって急務の課題になっています。それだけではありません。日本の成長戦略における医療・介護産業の位置づけと地方創生への期待という側面も無視できないでしょう。
13年6月の閣議で、医療分野における研究開発の司令塔機能の創設、健康長寿分野では20年までに国民の健康寿命を1年以上延伸する目標が決定しました。加えて、健康増進、予防、生活支援関連産業の市場規模を10兆円、医薬品、医療機器、再生医療の医療関連産業のマーケットを16兆円に拡大することも打ち出されました。さらに、翌年には閣議決定の改訂戦略として、地域医療連携推進法人制度の創設も決まり、岡山大学などでメディカルセンター構想が進んでいます。
この構想では、岡山における医療・福祉サービス提供の拠点として、ヘルスケアも含めたメディカルセンターを整備し、今後、高齢化と人口減少が加速するため、岡山市を核とした「コンパクトシティ」と呼ばれる街づくりをすることまで視野に入っています。それは医療、教育、行政サービス、高齢者対応住宅、そして商業を集積した街であり、その中心に病院が置かれるわけです。もはや、医療・介護は、これらの産業集積の核、経済の大きなエンジンと捉えて差し支えありません。
厚生労働省の雇用政策研究会による2030年の労働力推計では、 今後の日本経済が実質ゼロ%成長を続け、女性や高齢者の労働参加が進まない場合、 日本の就業者数は2014年と比較して790万人減少すると予測。一方、同推計において、若者・女性・高齢者等の労働市場への参加と経済成長が適切に進んだ場合 (経済成長と労働参加が適切に進むケースでは)、2030年の就業者数の減少は182万人の減少にとどまるという試算も出ています。また、労働政索研究・研修機構の統計では、2012年から2030年にかけて増加するのは全20種のうち3業種だけ。
増加数が最も大きい産業は医療・福祉・介護分野で、約250万人の規模で雇用増加が見込まれています。その他は、情報通信産業で7万人、その他サービス業で19万人となっていることから、あらゆる産業の中でどれだけ際立った成長分野であるか、ご理解いただけると思います。その大半は介護なのですが、医療と介護を別々に捉えるのではなく、一体的に考えていく政策が既に打ち出されています。
すると、医師のみならずさまざまな業種・業態におけるビジネス感覚にすぐれたリーダー的人材が必要になってきます。そうした人たちは、単に専門能力を有しているにとどまらず、コミュニティをつくるという視点、言い換えると「公益心」にあふれたマインドを持っている指揮者型人材(プロデューサー型人材)が求められるでしょう。
例えば、アメリカのピッツバーグ(人口約31万人)では鉄鋼産業のUSスチールが衰退してしまったことから、1980年以後、医療での地域おこしに取り組んできました。医療の産業集積によって2011年には55000人の雇用が創出されたことはもとより、病院経営で出た医療事業収入90億ドル100万ドル(2011年)の利益から、街づくりに5億6300万ドル(2010年6月期)を拠出しています。つまり、医療を地域経済のエンジンとして地域再生・貢献がなされ、鉄鋼業衰退期は失業率の高い廃墟の街だったのが、今や全米で屈指の住みやすい街になっているということです。