20代の佐藤さんを突き動かした「幸せな体験」

佐藤さんは現在入社5年目。東日本大震災が起こったときはまだ学生で、社員ではなかった。「役員をはじめ、みんなの気持ちを受け継いで商品化を進めていましたが……正直、『良い商品だけど、売れないだろうな』と思っていました」と打ち明ける。

2015年に商品開発を引き継いだ時点では、まだ「Omoidori」という名前ではなく、形状も今より男性向けのものだった。「革新的な良い商品だと思いましたが、自分では欲しいとは思いませんでした。まったく共感できなかったんです」(佐藤さん)

現在のOmoidori(左)と、2015年時点でのプロトタイプ(右)。iPhoneの周辺機器というよりは、黒くてカッチリしたスキャナらしい形状だった。

2015年の秋、佐藤さんは祖父を亡くしている。どうすれば大好きだった祖父を偲んであげられるかと考えていたとき、手元にあったのが「Omoidori」のプロトタイプだった。佐藤さんは祖父が残したアルバムをすべてスキャンし、大きくプリントしたものを葬儀の祭壇に飾ったり、メモリアルムービーを作って流したりした。

「写真はそのまま眠らせておくのではなく、デジタル化して見返すことで、親戚や知り合いの方たちと思い出を語り合うことができるんだと実感しました。それまであまり共感できなかったこの製品がすごく大切なものだと気づいたのです」

このときの「幸せな体験」が、「Omoidori」の商品コンセプトの根幹になっている。

「Omoidori」は写真という思い出を未来に残すガジェットであると同時に、思い出をまわりの人たちと共有するコミュニケーションツールでもある。

現在は熊本地震の被災地でボランティア団体が「Omoidori」を使い、写真をデジタル化することで被災者の楽しかった思い出を語り合うなどの活動を行っている。中心にあるのはコミュニケーションだ。「東日本大震災に開発の背中を押された製品なので、そうやって貢献できているのが嬉しいですね」と佐藤さん。

企画が生まれてから販売まで10年かかったOmoidori。現在の形になるまでには、たくさんのプロトタイプが作られた。左上が製品版、右隣がその一つ前のバージョン。

今後は発売2年半で5万台の売上を販売目標に据える。宣伝予算が使えない分、開発に携わった自分たちが商品に込めた思いをストレートに伝えていきたいという。商談にも佐藤さん自らが出向いて直接説明する。「企画から携わっている人間が説明すると、バイヤーさんもすごく感動してくれます。こちらの思いがバイヤーさんに伝わると、お店に来るお客さんにも伝わりやすいんですね。最少人数で商品開発をしたメリットだと思います」(佐藤さん)。

口コミは「Omoidori」の最大の武器だ。「写真をデジタル化することで、こんなに幸せな体験ができるんだ、ということを地道に伝えていきたいですね」と佐藤さんは意気込む。

■次のページでは、PFU「Omoidori」の企画書を掲載します。