放言、暴走には理由があった!

【「活発性×コミュニケーション×最上志向」による強み】

はっきり物を言い、人から愛されやすい一方で、同時に失敗することも少なからずある――トランプのこの傾向は、「活発性×コミュニケーション×最上志向」の組み合わせから発現したものであると予想される。お互いに受容されている関係性や状況においては、自由でのびのびとし、なおかつ思いやりがあると相手から受け止められやすい一方で、自分が攻撃される状況においては、思慮深さに欠けると受け止められやすくなると考えられる。

当選確実が伝えられた後で行った勝利演説でヒラリー・クリントンの労をねぎらう発言を行ったこと、選挙後にオバマ大統領と会談した際に同氏を賞賛したこと、安倍首相と会談した際に思いやりや気配りを見せたことなどは、これらの資質が長所として発現した場合の好事例であると考えられる。

2016年12月20日に開催された内外情勢調査会での講話において、安倍首相はトランプとの会談を振り返り、内容自体はオフレコとしながらも「(トランプは)非常に率直に話をし、人の話をよく聞く」と強調した。この印象が「信頼できる人物である」というトランプへの人物評価につながったものであると感じた。このように、平常時においてこれらの組み合わせがポジティブに発揮された場合には、相手に信頼感を与えるとともに、アドリブ満載で臨機応変なコミュニケーションが人を大いに魅了するわけだ。

【「活発性×コミュニケーション」による強み】

34の資質のなかで、よい方向にも悪い方向にも振り幅が大きくなる活発性と、考えなくても話をすることができる高いコミュニケーション能力を同時に強みとしてもつことは、トランプの資質を語る上で極めて重要なポイントとなる。活発にコミュニケーションすることで人を魅了する一方、熟慮の上で話をするべきシーンで活発性が悪い方向に発揮され、想定外の言動を行い問題を引き起こしてしまう傾向は、この組み合わせから派生しているものと考えられる。

【「戦略性」「着想」の強み】

トランプは“5つの強み”の次点として、戦略性、着想を強みとして有していると考えられる。この戦略性を駆使して取引や交渉に臨むことで勝利の可能性を高めているものと思われる。また思考の才能といえる着想が戦略性と組み合わされることにより、「活発性×コミュニケーション」がポジティブに発揮され、多くの人を意図的に魅了できていると考えられる。その一方で、「活発性×コミュニケーション×着想」が上手にコントロールされない場合には、即断即決でネガティブな結果をもたらすことも有り得ると考えられる。

戦略性を資質にもつと予測されるなかで大統領選挙に勝利したトランプ。その日の勝利演説で「すべてのアメリカ国民の大統領になる」とすでに威厳ある大統領然とした態度を示したトランプ。

今回の資質分析の結果は、なぜトランプが大統領選の勝利から3カ月も経たない間に軌道修正を迫られ、就任演説で「予備選挙戦キャンペーン中にコア支持層の熱狂を獲得しようとしている候補者」に戻ってしまったのかの背景を物語っていると言えよう。

田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、オランダABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)、東京医科歯科大学医療経営学客員講師、グロービス・マネジメント・スクール講師等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/bizsite/professor/
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