Apple Payでアップルが新盟主に名乗り
クレジット業界の「盟主の条件」をあらためて考えてみると、こんなふうに考えることもできます。
50年前のVISAは、まさにパイオニアだったのです。それまで決済の中心は小切手でした。現金に比べれば便利ですが、小切手は当時、州をまたいで使うことはできませんでした。これが国民をきつく縛っていたのです。そこで、バンク・オブ・アメリカが立ち上がり、VISAというクレジットカードを作って州を超えても利用できるようにしたのです。
それだけではありません。この時にはプラスチック製のカードになっていたので、小切手につきものの水濡れや破損の心配もなくなっていました。さらに通信手段も郵送から電話回線に変わったので、残高の確認や本人確認などもすべて短時間にできるようになり、決済がとても楽になりました。ある意味、VISAのクレジットカードが米国の市民生活に大きな革命を起こしたといってもよいでしょう。
しかし、そのVISAでさえ、いまになると“オールドメディア”です。当時、もてはやされたプラスチックカードも、電話回線も、最先端の技術とはいえません。いまはインターネットが普及し、携帯電話を経て、スマホを老若男女が利用するようになりました。つまり、道具立てと環境が根本的に変わったわけですから、それらを取り仕切る新しい盟主が出てこないといけないのです。そういうふうに考えていくと、盟主の交代もやむを得ないのではないでしょうか。
そして、その新しい盟主になりうる可能性がもっとも高いのが、アップルだといえます。とくに今回のアップルペイの騒動で肝腎のVISAの影が薄いのではないか、と考えているかもしれませんが、それにはこんな理由があるからです。
取り引きの際にVISAはカード会社から若干の手数料を取っています。そうしたVISAがつくりあげた体制のなかにアップルが強引に入ってきたわけです。アップルはスマホ利用料という名目でカード会社から若干の手数料を取ります。VISAから見ればアップルはそのVISAの仕組みの上に乗っかっているだけです。そして、アップルペイに入るカード会社から手数料を取ろうとしているのです。これはVISAにすればとんでもない話です。
さらに、今回の騒動で、決定的だったのが、アップルペイで利用するインフラがVISAのネットワークではなく、スイカの基盤となっているフェリカネットワークを使っていることです。クレジットカードで利用するiDもQPもフェリカネットワークを使って取り引きしますから、VISAには手数料がいっさい入らないのです。これまでのVISAの決済ではありえないことでした。そのせいかVISAはアップルペイに消極的な動きを見せています。
VISAが目立った動きを見せず、沈黙しているのは、静かな怒りの表明でもあるのです。
したがっていまわれわれはクレジットカード業界の盟主交代の時に立ち会っているということになります。これは歴史的な瞬間です。