人は、自分が欲しいものが意外とわからない

――ITやスマホがゼロからここまで伸びてきましたが、この先を読むのはすごく難しいと思います。未来予想図をどうやって描いていくのでしょうか。

【森川】それはさっきお話ししたように、「誰が使っているか」ですね。オタクが使ってるものはオタクの人口が少ないのでそれほど伸びないと思うんですけれど、普通の人たちが使い始めてそれで成長しているとなると、伸びるだろうなと。

――アメリカで流行ったことが、何年か後に日本で流行るというパターンがこれまではいろいろありました。今でもヴィジョンの描き方としては有効でしょうか。

【森川】どちらかというと、社会がどうあるべきかみたいなものがすごく重要と思っていて、それをどれだけヴィジュアル化できるかが、それがヴィジョンだと思いますね。もちろん、ビジネスとしてどういう形で狙うかでいうと、アメリカや中国がやり方としてかなり先行していますが。

――社会がどうあるべきかと、それを現実社会で実現するというのは、また別の話だと思いますが、どう考えていますか。

【森川】でも、人がこうなってほしいと思うことって、本当にその人たちがそう考えているか一概にはわからなかったりするんですよね。よく新商品のリサーチをすると、だいたい今までと違い過ぎると「欲しくない」という結果になるんです。でも使ってみると、ああ、いいじゃない? って新しい発見があったりする。未来の社会像に関しても、(考えていなかった姿が)目の前に現れたりすると、意外とよかったりする場合もあるのではないでしょうか。

――それまでは準備しておいて、タイミングを見ながら手をつけていくのが一番いいということでしょうか。

【森川】そうですね。あとはいろんな人を説得するとか、共感してもらうみたいなこともあるでしょう。AirbnbとかUberとかがそうですよね。サービス内容を説明すると最初は「そんなの怖くて使えません」という話になるんですけど、それを粘り強くやったことによって大きく広めた。もちろんこれは難易度が高いので、自分の力量を見極めた上でやらないといけない。特に日本の場合は難易度が高いものを受け入れにくい国民性なので、結構大変ですね。

動画ファッションマガジン「C Channel」のトップページ(左)。スマートフォンでの表示にあわせて、縦長の動画を配信している(右)。

新規事業は、提案する側でなく「される側」の意識変革が必要

――これは社内の新規事業などでもそうですよね。たぶん、新しい事業を考えることよりも上を説得することのほうが難易度が高いという会社は多いのでは。

【森川】日本の企業でいつも矛盾だと思うのは、「ものすごく儲かるものを提案しろ」というので、ものすごく儲かるものを提案すると、「すぐに儲かるものを提案しろ」と言われることです。すぐ儲かるものと、ものすごく儲かるものというのは、全然アプローチが違うんですよね。そうすると誰も案が出せなくなって「案が出ないじゃないか!」という話になるんです(笑)。

――提案する側ではなく、される側の意識を変えないと、なかなかうまくいかないと。

【森川】そうですね。ただ、なかなかそれが変わらないから、新しい事業が生まれないと、そういう構造になってるんですね。本当に残念なことですけれど。