法人がオフィスを借りる場合、保証金(敷金)は賃料の8~12カ月もかかる。しかし保証金は、ただ預け入れるだけで何も生まないお金。企業成長の足かせともなりかねない。そんな中、日本商業不動産保証は、入居企業の財務状況を審査して信用を与える「与信」に着目し、これまでの業界慣行を覆す、保証金を半額にするサービスを行っている。このサービスが生まれた背景、ベンチャーや中小企業に与えるインパクトについて、同社代表取締役社長の豊岡順也氏に聞いた。
眠る敷金30兆円を有効活用するために
事業が拡大して社員が増え、より広いオフィスに移転しようとすると、多額の費用がかかる。例えば50坪のオフィスから100坪のオフィスに移転するときには、現在のオフィスの原状回復費、新しいオフィスの内装費、引っ越し費など、合計で4200万円程度になる。その約半分以上を占める2400万円は、移転先の不動産オーナーに預け入れる保証金(敷金)だ。退去するときに返ってくるとはいうものの、ただ預け入れるだけで増えるわけでもなく、事業にも使えない。何も生まない眠るお金だ。「日本では現在、企業が預け入れた保証金が、約30兆円眠っているとの試算もあります」。日本商業不動産保証社長の豊岡順也氏は話す。
オフィス移転時の保証金は、特に成長途中にある中小企業やベンチャー企業にとって大きな負担だ。もし保証金の負担が減れば、それだけ製品の材料費に回せるので売り上げにつなげられるし、商品開発や人材採用にも使える。優秀な人材採用に有利な立地の良いオフィスに移転することもできる。
一方、不動産オーナー側が、多額の保証金を求めるのには理由がある。海外では通常、オフィスに入居する際の保証金は月額賃料の0~3カ月なのに対し、日本では8~12カ月。日本には「借地借家法」があり、賃料の不払いや倒産などがあっても、不動産オーナーが入居者をすぐには退去させられない。このため不動産オーナー側は、多額の保証金を預かることでリスクに備えているのだ。
しかし、入居企業の財務状況を正しく審査し、不払いや倒産の可能性が低いことが保証されれば、多額の保証金は不要のはず。豊岡氏はそこに着目した。「私は以前、企業を対象とする与信調査会社を経営していたため、企業の財務状況などを判断して信用を与える『与信』のノウハウがありました。そこで、不動産オーナーの代わりに我々が入居企業の審査を行って与信を行えば、保証金を減らせると考えました」