インバウンド消費が減速傾向にある今年の日本。そんな景気には左右されない超リッチ層の外国人顧客を獲得しようと、日本最大級のホテルチェーンが動き出した。
世界の超リッチ層870万人を狙え
旧建築の解体時から、これほど世間の耳目を集めた再開発プロジェクトも珍しいだろう。“赤プリ”の愛称で親しまれた旧「グランドプリンスホテル赤坂」を、ホテル、オフィス、賃貸住宅、商業施設からなる複合施設に建て替えた「東京ガーデンテラス紀尾井町」プロジェクトだ。
最上階を残して、上から1階層ずつ解体して下ろしていく「テコレップ」工法は、騒音や振動を極力抑え、粉塵飛散ゼロという“日本発・世界初”の技術で、担当した大成建設によると海外メディア15社が取材にやってきたという。また、朝鮮李王家の東京邸だった歴史的価値の高い旧館は今回「赤坂プリンス クラシックハウス」としてリニューアルされたが、青森・弘前城の修復工事でも注目された曳家技術で44メートル仮移設され、全体工事からの影響を回避する措置が取られた。
西武ホールディングス(以下、HD)にとっての記念的事業となったこの紀尾井町プロジェクトは、7月27日にグランドオープン。冠施設が、プリンスホテルグループのフラッグシップホテルである「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」だ。
バブル期にはウエディング予約やクリスマスの客室予約で断トツの人気だった巨大ホテル(761室)、それが赤プリだとすれば、新ホテルは富裕層をターゲットとする小型ラグジュアリーホテル(250室)。性格も規模も大きく変わった。プリンスホテルは「ザ・プリンス」「グランドプリンスホテル」「プリンスホテル」の3ブランドがあるが、新ホテルは最高位のザ・プリンスの1つながら、それを超える最上級の施設グレードとなる。
客室の標準料金は、基準タイプ(最多客室数)のデラックスキング(42平方メートル)が6万3000円で、都内の外資系ラグジュアリーブランドと肩を並べるレベルだ。最も高いのはザ・プリンスギャラリー スイート(148平方メートル)の59万円。スタッフ総数は220人で、ほぼ1室に1人。これもラグジュアリークラスのスタンダードといえる。250室という規模は、痒いところに手が届くサービスを提供しつつ、経営効率を高めるには妥当な線と考えられる。
メインターゲットは、急拡大するインバウンド旅行のなかでも旅行支出額が頭抜けて高いラグジュアリートラベル(富裕層旅行)だ。世界には金融資産保有額100万ドル以上の富裕層が870万人ほどいて、その旅行の誘致合戦が世界の観光先進国間で繰り広げられている。日本は誘致で立ち遅れていたが、観光庁の旗振りもあってこの数年で民間の取り組みも強化された。
そして海外戦略強化のため、新ホテルはスターウッドホテル&リゾート ワールドワイドと業務提携し、世界の名門ホテルや超高級リゾートが加盟する最高級ブランド「ラグジュアリーコレクション」の一員となった。日本では、森トラスト・ホテルズ&リゾーツの「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」に次いで2軒目の加盟となる。