ビジネスフロンティアに日本人はいない

危険な話ばかりをしましたが、一方でソマリアは今、ビジネスブームに沸いています。送金や金融業、ホテル、建設などで稼いだお金持ちもいて、首都モガディシュの比較的安全な地区では、日本と変わらない値段で豪華な家具が売られていたりもします。私が泊まったホテルのオーナーは、防弾ガラスのついたトヨタのランドクルーザーを20台も持っていると言っていました。

ですが、水道や電気、ガスなどのインフラはまだガタガタです。団地のような住宅も整備されていません。ソマリアが、警察機関が機能しはじめた今でもアメリカから「脆弱国家ナンバーワン」と目されているのは、インフラの問題なのだと思います。国全体としては改善の方向に向かっていても、世界のスピードについていけていないのです。

8月、ナイロビでアフリカ開発会議が開催されました。安倍首相が参加して、日本企業・団体がインフラ協力などを進める覚書に署名したのをご存じの方もいるでしょう。ですが、15年前はナイロビに1000人の日本人ビジネスマンがいました。私もよく行った日本人レストランでは、夕刊フジや日刊ゲンダイを読みながら納豆定食が食べられました。でも今、ナイロビにいる日本人はたったの400人。ソマリアはゼロです。政府がどんなに「アフリカが最後のビジネスフロンティアだ」などと言って盛り上げても、実態とはかけ離れています。

本当にアフリカでビジネスがしたいなら、リスクをとって人が行かなくてはなりません。中国はそこがすごい。だから先を越されているのです。世界のスタンダードもリスクオンの方向です。それだけでなく、兄はカナダ、妹はアメリカ、弟はソマリアで頑張る。投資のように家族全員で世界に散らばって、リスクヘッジしています。

残念ながら、自衛隊やメディアを含めた日本人は、危険に対する経験値があまりに低い。日本にいればテロや戦争を身近に感じることがないので、当然と言えば当然です。ですが、この先もテロの危険がないかと言えば、そうではない。日本人の危機管理能力が上がり、世界で勝負できるような日がくることを願っています。

大津司郎(おおつ・しろう)
フリージャーナリスト。ケニア、ウガンダ、ルワンダ、コンゴ、エチオピア、スーダン、チャド、ナイジェリア、南アフリカ、ジンバブエ、ナミビアなどの野生世界と時事問題の両面からアフリカを追求し続けている。
 
(大高志帆=構成 加藤ゆき=撮影)
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