「排泄の処理は、2日に1回に減らせ!」
Iさんの経験では次のようなケースがあったといいます。
「親御さんが元気なうちは食事を作ってもらっていたが、要介護になってそれが難しくなった。自分が作る努力をすればよさそうなものですが、そんなことはせず食事は外食かコンビニ弁当。親御さんにはそのついでに買ってきたおにぎりなどを与えるだけなのです。また、そうした食事の心配さえ一切せず、親御さんが不自由な体を引きずるようにして買いに行くケースもありました」
排泄の処理に関しても問題を抱えることがあるようです。
「通常、排泄処理を自分でやろうという人はほとんどおらず訪問介護のホームヘルパーに頼るしかないのですが、その出費が嫌なのでしょう。毎日来なくていい、2日に1回に減らせなどと言われるんです」
Iさんの話を聞いて、ふと疑問を感じました。
さまざまな事情があり他に行き場がなくて今の生活があるのかもしれませんが、同居という状況を受け入れているのだから、どこかに親子の情はあるはずです。収入のない自分の面倒を見てくれた分、せめて介護ぐらいは頑張ろうと思ってもおかしくありません。また、もし、そうした情がなかったとしても、親の存在は自分にとっての命綱です。亡くなったら年金はストップし、今の生活は立ち行かなくなる。それを考えると親には少しでも長生きしてもらった方がいいわけで、しっかり介護をしなければと思うのではないでしょうか。
その疑問にIさんは、こう答えました。
「これはあくまで私が経験した事例であって、ニートの方でも親御さんをいたわる気持ちを持ち、真面目に介護に取り組んでおられる方もたくさんおられるでしょう。しかし、世間の常識とはかけ離れた感覚のまま介護をされる方が増えている危うさを感じますね」
そうした経験からIさんは、「ニートのお子さんと同居している親御さんは、ちゃんとした介護をしてくれる、などと期待しない方がいい」と言います。
「そういう方は元気があるうちに最期まで面倒をみてくれる施設を見つけ、家を売って入所することを考えた方がいいと思います。そうなればお子さんだって、生きるために社会に出ざるを得ないですし、自立するきっかけになるかもしれません。ただ、その決断は難しいかもしれません。ニートの方がいる利用者さんを見ると、親御さんに甘さを感じます。子離れできていないのです」
介護現場で働いている人と話をすると、このような話を聞いてため息をつくことが少なくありません。しかし、相当数いるパラサイト・シングルが親の介護をする年齢を迎えようとしている今、こうした問題が増加することは確実です。
「ただ、介護行政や関係者は、そんな状況を見過ごしているわけではありません。保健所など多職種が連携を取って介護者の精神面のケアを行なうなどの対応をし、そうした悲劇を少なくしようという努力をしていることは解かってください」