「他人の不幸は蜜の味」は視覚的に実証されている

とはいえ、ここまでお話ししても、反論する人も少なくないでしょう。

「自分には他人の不幸を喜ぶ感情などない。他人の成功を祝福する感情があるだけだ。妬みの感情を目に見える形で証明できるのか?」と。

今までは、目に見える形で証明することは不可能だったので、もしそう質問されたら、ぐうの音も出ません。即議論は終了。人間の性善説または宗教的・倫理的主張の勝利に終わりました。

ところが、以前にマシュマロ・テストの回(過去記事参照 http://president.jp/articles/-/17376)でお話ししたfMRI(機能的磁気画像共鳴法)の出現によって、「心」を直接見ることができるようになったことで事情は大きく変わりました。

さあ、この「心」をダイレクトに見ることができるfMRIとはどんな装置か。

ヒトの脳が働いている部位では大量に酸素が消費されることで、それを補うために血液量(酸化型ヘモグロビン含む)も増え、相対的に還元型ヘモグロビンが少なくなります。そのようにして血液中の酸素濃度に変化が起こります。この変化がMRI信号に影響を与えることを利用して脳の活動を視覚化する。それが、fMRIの仕組みです。

1秒間に10枚を超える高速で脳の断層写真を撮影した場合、血流動態反応が画像化できて、これによって脳のどの部位が活動しているかが分かります。そして脳のどの部位がどのような感情や欲求をつかさどるかを特定することで心がビジュアル化されるというのがざっくりとした考え方です。

人間に妬みの感情が起きた場合、このfMRIを使うと脳のどの部位にどんな反応があるのか。

京都大学大学院医学研究科の高橋英彦淳教授は以下のシナリオを使って、妬みの感情をfMRIで観察しました(『なぜ他人の不幸は蜜の味なのか』高橋英彦著)。

【被験者】
●主人公(男) 学業は平均的男子大学生、野球部で補欠、貧乏で寮暮らし、恋人なし
●一郎 学業優秀、野球部でエース投手、経済的に豊か、女子学生にモテる
●花子 学業優秀、ソフトボール部でエース投手、経済的に豊か、男子学生からモテる
●並子 学業は平均的、ソフトボール部で補欠、男子から人気なし

*女性の被験者の場合には、主人公を女性として性別を入れ替えたシナリオにします

ご想像のように、主人公は一郎を最も妬ましく思い、次に花子を妬ましく思いました。並子は妬む理由がないため無関心でした。主人公が一郎や花子のプロフィールを見た際に、脳で活動した領域は、前頭葉の前部帯状回の上の部分でした。この部分は、身体の痛みの処理に関係している部位。つまり、「妬みとは心が痛いことである」ということができるかと思います。

このシナリオを使ったfMRIの実験で、「他人の幸福は飯がまずい」ということが、人間の本性であることがはっきりしました。