入社当初は辞めようと思った
【稲盛】モチベーションが上がる仕事に就けたら、人間は幸せですが、大半の人はそうではありません。初めから高いモチベーションを保てるような仕事はあるわけがないといってもいいでしょう。結局はモチベーションが高まるよう、自分で努力をしなければならないのです。
その点、今の若い人は、ある意味、かわいそうな気もします。私が鹿児島大学工学部を卒業した1955年のころは、朝鮮戦争の特需が一巡して雇用情勢が厳しくなっていました。地方大学出身者は都会の一流企業に入りたくてもままならず、どこも相手にしてくれませんでした。
結局、大学の先生の紹介で、京都の松風工業という高圧線用碍子の製造会社にやっと就職するのですが、実は経営難が続いていたことを入ってから知ります。給料も遅配で、非常に厳しい環境でした。
新入社員は次々辞め、秋には2人になってしまいます。2人で相談して転職を決め、手続きに必要な戸籍謄本を鹿児島の実家から取り寄せようとしたのに、いつまで経っても届かない。「入社して半年も辛抱できない人間は情けない」と、兄が握り潰していたのです。
転職もかなわない。これでかえって気持ちが吹っ切れました。ここで生きていかざるをえないなら、これ以上、不平不満をいっても仕方ない。逆境に耐える努力をしよう。考えを180度切り替えて仕事に没頭する決意をしました。厳しい環境が否応なく私を変えてくれ、生きる道を教えてくれたのです。
一方、今の若い人は、私のころと比べてはるかに恵まれていますが、その分、自分を変えられるような厳しい環境を自ら求めなければなりません。ただ、私がそうだったように、あえて厳しい環境を見出していけば、必ず成長できるはずです。