楽天家の子どもには明るい未来を示す
ビリギャルのさやかちゃんを指導する際に意識したのも、基本的にはこの3つでした。坪田塾では教師と生徒と、その両親と一緒に受験を戦っています。さやかちゃんの場合は、名古屋ではお嬢様学校と呼ばれる私立女子高の2年に在学していました。しかし、素行が悪くて停学処分を何度か受け、大学進学の内部推薦がもらえません。といって一般入試で合格するのもむずかしい。そこで、知人から塾の評判を聞いた母親に連れられて入塾面談に来ました。
当時の彼女の学校の成績は、端的にいうと学年ビリ、全国模試の偏差値は30以下。おそらく、自信などはまったくなかったでしょう。けれども、すばらしいのは、それでも塾にやって来たということです。つまり、母親とさやかちゃんは、現状を打開するために勇気を持って一歩踏み出したことになります。初対面で僕は、彼女が「楽天家タイプ」だと見抜きました。しかも、根はとても素直でやさしい女の子です。
楽天家の子をヤル気にさせるには、とにかく明るい未来を示してあげること。すると、楽しいイメージを抱いて目標にチャレンジします。私は「志望校は慶應にする?」と切り出し、続けて「慶應に受かったら、キラキラした友だちがいっぱいできるし、アナウンサーにだってなれるかもね!」といったのです。それに対し彼女は「うわ、確かにそれはいいな」と笑い出しました。
その後、さやかちゃんはと二人三脚で難関校突破をめざし、勉強を開始したわけです。もちろん、最初の頃は、とんちんかんな会話もありました。例えば僕が「日本史で知っていることを教えてくれる」と聞くと、彼女は首をかしげながら「うーん、あー、いい国作ろう、とかそういうやつ?」と聞いてきました。「そう、そう!」とほめると、「思い出した。いい国作ろう平安京だ」といった具合です。
そんなさやかちゃんは着実に伸びていきました。一般には、「ヤル気が出る→勉強するようになる→できるようになる」と思われがちです。実はそうではなく、「やってみる→成長を実感する→できるようになる→ヤル気が出る」という流れだと考えてください。彼女も、こうして自信をつけ、学校でも居場所が確保できたようです。すると、私を含め、他人にたいしても敬意を持って接することができるようになりました。
これと同じことは9タイプすべてに当てはまります。よく知られる「孫子の兵法」にある「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と同じ発想にほかなりません。その意味で「人間は9タイプ」は、孫子の考え方を教育に応用したものといえます。相手と自分の特性を知って行動していくわけですから、指導や育成方法がズバリとはまり、無駄な労力を費やさなくてすみます。