asahi.comなどで採用された検索エンジン技術
【田原】検索エンジンって、Googleがやっているやつ?
【西川】Googleは全世界の人に対して提供していますが、僕たちは企業向け。会社の中に転がっているたくさんの文書を検索できるソフトウエアです。文書検索のソフトはすでにありましたが、私たちの製品は速くて高機能。速ければ低コストで済むので、最初は安さを打ち出して売り込んでいきました。
【田原】売り込むといっても、営業の経験はゼロでしょう。最初は苦労されたんじゃないですか。
【西川】はい。最初はお客様から「じゃ見積もりを出して」といわれて、「見積もりって何だろう?」というレベルでしたから(笑)。
【田原】客はどうやって見つけたの?
【西川】ベンチャーキャピタルの紹介です。創業当初、声をかけてくれたベンチャーキャピタルがあったのですが、僕らは投資を受けるつもりはなくて、「お客様を紹介してください」と勝手なお願いをしたら、紹介してくださって。最初は携帯向け検索エンジンの会社でした。当時はまだガラケーの時代で、ガラケー向けのアプリを検索できるエンジンを入れてもらいました。売り上げ数百万円の契約で、みんなを養えるようなレベルではなかったのですが、それをきっかけに他の会社も買ってくれて、ようやく軌道に乗りました。
【田原】ガラケー専門のソフトウエアなんですか。
【西川】いえ、文書なら何でも。たとえば朝日新聞の「asahi.com」(アサヒドットコム、現・朝日新聞デジタル)というサイトがありますよね。あのサイトで記事を検索するとき、裏側では私たちの製品が使われています。
オフラインの世界で使えるAIを提供したい
【田原】最初に起業したのはPFI(プリファードインフラストラクチャー)という会社でしたが、2014年にPFN(プリファード・ネットワークス)を立ち上げます。これはどういう経緯で?
【西川】最初はとりあえず持っている技術で起業しましたが、ビッグデータを扱ってさまざまな技術分野に触れるにつれ、ようやくやりたいことが見えてきました。具体的にいうと、人工知能を自動車やロボットといったたくさんの機械に埋め込んで機械を賢くしたり、機械同士が連携してより複雑なタスクをこなす技術をやりたくて、事業を思い切ってシフトしました。
【田原】その人工知能のベースになるのが、ディープラーニングという技術だそうですね。どういうものなのか、説明してもらえますか。
【西川】ディープラーニングの基礎になっているのは、ニューラルネットワーク。要は脳のニューロンの階層をモデル化して、いろいろなものを学習できるようにする技術です。この技術はかれこれ50年くらい研究されているのですが、近年、コンピュータのスピードが上がって、たくさんのデータを集められるようになり、認識の精度が飛躍的に向上しました。たとえばネコやリンゴを見分ける一般物体認識の指標は、12年にGoogleがものすごい成果をあげました。そこから世界中の研究者が「この波に乗り遅れてはいけない」と参加してきて、いま加速度的に技術が進化しています。
【田原】Googleが先行している分野で、西川さんの会社はどう勝負するのですか。
【西川】僕らはもっとリアルの世界、現実の世界に人工知能を提供していきたいと思っています。じつは人工知能は、オフラインの世界にまだぜんぜん適応できていないんですよ。たとえばいまも車はほぼすべて人が運転しているし、工場のロボットも基本的には人が動きをコントロールしています。私たちは人がコントロールしたり教えこむのではなく、機械自身が学習して複雑なことができる世界を目指しています。具体的に考えているのは、自動車、製造用の工作機械、それからライフサイエンスの3分野で、そういう世界がつくれたらいいなと。