個人営業がオンラインで「復権」

かつての営業2.0への移行は、ITの進化と連動しながら進んでいった。現在ではさらに、このITの進化が、クラウドサービスをはじめとする、商談の分散化に向かう新たな動きを後押しするようになっている。

この動きに対応するべく、日本IBMは新しいデジタル営業を開始している。この営業1.0とも2.0とも異なる新たなスタイルの営業では、見込み顧客に対して、1人の担当者が、対面ではなく、ウェブ経由でアプローチし、成約までを担当する(図2)。日本IBMは一方で、依然として営業2.0的なチーム営業も展開しているのだが、近年ではこのオンライン・コミュニケーションによる個人営業の活躍する領域が拡大しているという。

図2 営業1.0 2.0 3.0

なぜ、この「営業3.0」とでもいうべき、新しい動きが生じているのか、第1の要因は、販売する商品の変化である。製品やサービスの新たな買い方が生じているのだ。クラウドサービスのように、顧客企業が部門や店舗などの小ユニットごとに、必要なときに必要なだけ利用すればよい製品やサービスについては、大がかりな営業チームで対応していく必要性は低くなる。

第2の要因は、顧客企業の購買行動の変化である。現在では多くの場合、顧客企業は新たな商談にあたって、営業マンにコンタクトする前に、ウェブで情報収集をすませるようになっている。すなわち販売側としては、このプレ購買の動きを自社のウェブサイトでとらえることで、見込み顧客を早期に判定し、アプローチを開始することが可能である。営業マンが顧客を発掘するべく、企業を一軒一軒、訪問して回る必要性は低下している。

第3の要因は、ウェブ上の営業支援システムの充実である。ウェブ経由であれば、テキストやビデオによるリアルタイムのコミュニケーションが可能である。履歴の管理や、サービスの試用などのツールも提供しやすい。見込み顧客にコンタクトをして、すぐに試用に誘導することも可能だ。個人営業であっても、ウェブ上であれば、高度な対応を効率的に行うことができる。

10年ひと昔という。かつての日本企業の営業2.0への移行期にあって、その雛形と目されていたのが、プロセス管理とチーム営業を融合した営業をいち早く展開していた日本IBMだった。(石井淳蔵『営業が変わる』岩波アクティブ新書、2004年)。同じ日本IBMが、現在では、営業3.0とでもいうべきオンライン型の個人営業に挑んでいる。ITの進化のなかで、営業の変化もとまらない。

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