課題はいかに地方の生産年齢人口を増やすか

そもそも地方創生の政策のイノベーティブなところは、交通インフラ整備に工場誘致、という旧来の発想は通じないことを直視し、「地域内の経済循環の拡大」が必要だと明確に掲げたことにある。今までの地方では、補助金も年金も地域企業の稼ぎも、資材購入や消費や貯金を通して、ことごとく東京以下の大都市に還流してきた。これらが少しでも多く地域内で回るよう、地産地消を進めなければならないというのだ。慧眼である。

このようなスキームを初めにつくったのが、自民党の石破茂氏、平将明氏、小泉進次郎氏の3人である。石破氏は、とにかく謙虚に勉強する人で、地方の実情にも深く通じている。平氏は大田区で家業の仲卸会社社長を務め、大田区の町工場の現状をよくわかっているし、大田区の町工場と日本の地方が抱える構造が同じであることを認識されている。そして地方は当初、このスキームで地方創生の計画づくりを始めたはずなのだが……。

困ったことに地方の政治家や自治体職員の方が、地域内の経済循環の拡大といわれても何のことか全然わかっていないという現状がある。かつての新産業都市だろうが地方創生だろうが同じで、やろうとしているのは、補助金で道路を造ろうとしていることだけ。でもある程度下の世代は、日銀の金融緩和や補助金、五輪の公共投資なんかで経済が活性化するわけないじゃん、ましてや子どもは増えないよね、ってわかっていると思う。

地方創生の予算をまいたから地方が活性化するだろうと思っていたが、うまくいかなかったなど、旧来の文脈でやっぱり地方創生はダメだと言われても困る。地域内の経済循環を拡大し、人口を増やすところにまで漕ぎ付けている自治体は、山間過疎地や離島にも出てきている。都市部こそ、こうした成功事例に学んで努力することが必要なのではないか。

藻谷浩介(もたに・こうすけ)
日本総合研究所調査部主席研究員。1964年、山口県生まれ。88年東京大学法学部を卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。以来、日本全国の市区町村をくまなく回り年間500回以上の講演をこなす地域エコノミストとして活動している。94年、米コロンビア大学大学院ビジネススクール修了。2011年より日本総合研究所に転じて現職。日本政策投資銀行地域企画部特別顧問、NPO法人地域経営支援ネットワークComPus理事長などを兼務する。著書に『実測! ニッポンの地域力』『デフレの正体』『里山資本主義』(共著)『和の国富論』など多数。

(後編に続く)

(高橋晴美=構成)
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