「君が会社の金を横領しようとしたという話がある。このままだと事件になる。全部話せ。悪いようにはしない」
横領という言葉に青山は驚き、事件になるという一言に焦った。経緯をすべて話し疑いを晴らそうとした。しかし、その説明はことごとく裏目に出た。
「これは背任だ。おまえは会社が受け取るべき利益を不当に横流しした。自分の利益にしようと黙っていたんだろう」
契約が成立し数千万円の手数料が利益となったが、自分には関係ないことだ。これに限らず商談はいくらでもあるが、自社で扱ってもだめで他社が持っていくこともある。ましてこの物件話は、自分がプライベートで聞いたことで営業マンとして受けたわけではない。いくら役員に訴えても聞く耳を持たなかった。
あとでわかったことだが、調査部は元刑事を使って、社員の解雇理由を探していた。例えば「消費者金融から融資を受けてはいけない」という規則を守っているかどうか。個人情報も、元刑事にとっては簡単な調査だった。
青山には、会社に充分貢献しているという自負があった。それがこの経験で初めて気づいたのだ。生き残るために人員整理を考える企業にとって、営業マンの実績など何の価値もないことを。
(早川智哉=撮影)