チャーチルも「大ウソつき」と呼ばれていた
ジョンソン氏の口から奔放な発言が出なくなったことはやや寂しいが、もしまだ同氏が首相になる道を完全にあきらめていないのであれば、外相職を全うしながら次の飛躍を狙っている可能性もある。もう少しで手に届きそうだった首相の座を、いったんは失ったように見えたジョンソン氏だが、まだ先は分からない。
イギリスの英雄ウィンストン・チャーチルは、彼が「荒野の10年」と呼んでいる1930年代、政治的に完全に干されていた。その彼が首相となる機会が訪れたのは、ナチス・ドイツがヨーロッパで猛威を振るっていた1940年のことだった。首相就任後、初めて議会に登場したチャーチルを保守党議員は苦々しく迎えた。当時は前首相チェンバレンへの支持が党内ではまだ強く、チャーチルを「いかさま師」「大ウソつき」と評する人もいた。しかしその後、ヒトラーからの交渉のオファーを断固として突っぱね、英国を一つにまとめあげ、勝利へと導いた。そして世界史にその名を刻んだのである。
ジョンソン氏はロンドン市長在任中の2014年、チャーチルの伝記『チャーチル・ファクター』を上梓している。本書は、逆境にも負けず政治家としてトップの座に就いたチャーチルと自分とを重ね合わせているようにも読める。「冗談」と受け止められた彼の外相就任だが、チャーチルの後継者を自任するジョンソン氏がEU離脱という危機を乗り越えるなかでどのような役割を果たすのか、しばらく目が離せない。
(AFLO=写真)