「ネット炎上」とは、インターネット上で個人や組織などに批判・攻撃が集中する現象を指す言葉だ。それはときに言葉の応酬にとどまらず、行き過ぎると社会的制裁にまで発展する場合もある。実社会にまで影響を及ぼすようになったネット炎上現象。誰が、どんな理由で炎上に加担しているのか。ソーシャルメディア上の発言がもとで何度かの炎上経験をもつ為末大氏と、そんなネット炎上を学術的に研究する山口真一氏。炎の中と外、それぞれから見える風景を重ね合わせることで、見えてきた「ネット炎上」の実体とは――。

炎上加担者のプロフィールが浮かび上がってきた

【為末】ネット炎上を学術的に研究されているそうですね。

【山口】はい。計量経済学という統計的手法で炎上に加担する人のプロファイリングをしました。その結果を出版したところ(『ネット炎上の研究』田中辰雄・山口真一著、勁草書房)、想像以上に反響がありました。ネット炎上について定量的な研究はこれまでなかったんです。

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師 山口真一氏

【為末】炎上させようとしている人たち、つまり「炎上加担者」というのは、どういう人たちなんですか。

【山口】『ネット炎上の研究』出版後に、追加で今年実施した4万人を対象にしたアンケート調査のデータを、計量経済学でモデル分析をしてわかったことなのですが、女性よりも男性、年収が低い人よりも年収が高い人が、炎上に加担する傾向にありました。最新の調査では、さらに係長クラス以上の役職に就いていることが多いことがわかりました。とくに部長職の方の加担割合は目立って高かったですね。

【為末】管理職の方が炎上に加担しやすい、と。

【山口】そうですね。為末さんが過去に炎上した例をみても、いかにも「自分を賢く見せたい」みたいな人が結構いますよね。

【為末】ああ、多いかもしれないです(笑)。

【山口】結局そういう人たちなんですよね。自分の政治信条とかにある程度自信がある人が炎上に加担しがちであるということがわれわれの調査から見えてきました。

【為末】炎上加担者の出身大学はどうでしょう。何か傾向ってありますか?

【山口】出身大学までは聞いていないのですが、高卒や大卒などの学歴は関係なかったんですよ。

【為末】例えば、管理職の人がストレス発散のため炎上に加担してしまうということも考えられますか?

【山口】だいたいどんな炎上についても、70%くらいの人は正義感から加担していることが、調査から分かりました。ストレス発散などを目的に加担している人は20%ほどで、残りの10%は「他の人がやっているから」という便乗型です。

【為末】義憤に駆られてネットに書き込んでいるんですね。

【山口】はい。「やたらと攻撃的などこかのお偉いさん」って、たまにいますよね。

【為末】いますね(笑)。

【山口】わかりやすく言えば、炎上に加担しやすいのは、ああいうタイプなんだと思います。ヤンキーみたいな人が、安全保障についての話題で誰かを炎上させるかというと、たぶんしないですよね。それなりの企業に勤めていて、自分なりの考えをしっかり持っている、そんな人の方が炎上時に書き込みやすい傾向にあるようです。

【為末】正義感が強くて行動型の人が、結果として出世しているという見方もできるんじゃないですか。

【山口】相関はあるかもしれませんが、加担しやすいと言っても、そもそも炎上に加担するのはごく一部です。今「やたらと攻撃的などこかのお偉いさん」と聞いて為末さんが思い浮かべられた方が実際に炎上に加担している可能性は、ほとんどないと思います。