空洞化が進めば雇用は失われる

年収の大幅ダウンは部品メーカーにもしわ寄せが及んでいる。最も落ち込みが大きかったのは産業用ディーゼルエンジンを製造するいすゞ系列の自動車部品工業で177万円の減少。次いでラジエーター部品関連のティラドの143万円減、日産グループの日産車体や愛知機械工業なども100万円以上も減少した。主要部品メーカーの中で、年収がアップしたのはプレス工業(34万円増)1社だけで「輸出用トラック部品などが回復基調で1年前より残業時間が大幅に増えた」(広報担当)というのがプラス要因だった。

リーマン・ショック後に世界の自動車市場は壊滅状態となり、各社は激しい生産調整に追い込まれた。09年の春闘では、その影響をストレートに受け、トヨタをはじめ自動車各社のベースアップは大半がゼロ回答。一時金(ボーナス)も要求額から1カ月以上も下回る極めて厳しい結果となった。しかも、人件費抑制のため残業は原則禁止。「これまで月平均5万~6万円の残業手当をもらっていたが、それがゼロ。残業代を住宅ローンに回していたので家計は火の車」(大手部品メーカー社員)と嘆く声も聞こえてくる。

それでも「エコカー補助金」特需で、残業禁止も一部の企業では解禁となったが、10年9月以降、補助金打ち切りの影響で受注台数は激減し、再び残業を制限する動きも見られる。

さらに、各社とも想定レートを上回る急激な円高が、年明けから本格化する賃上げや一時金の労使交渉に悪影響を及ぼす恐れがある。すでに、日産は主力小型車の「マーチ」を低コストのタイなどでの海外生産に切り替え、日本に逆輸入している。米国向け輸出車の生産拠点の九州工場を分社化する計画も進んでいる。円高でも採算が合うような賃金体系に見直すためだ。三菱自動車も小型車の生産を段階的に海外に移管するほか、トヨタもカローラの輸出打ち切りを検討中である。

トヨタの豊田章男社長は「よほどのことがない限り、海外に持っていくことはしない」と国内基盤の維持にこだわるが、海外への移管が加速すれば、空洞化も進む。賃金のアップダウンで一喜一憂する時代は終わり、働き手の間では「雇用が維持されるかどうか?」(前出・部品メーカー社員)という不安が頭をもたげる。

※すべて雑誌掲載当時

(撮影=山口典利)