一通の葉書が吉田司さんのもとに届いた。差出人は、知り合いの派遣労働者。彼は日本政府の政策がワーキングプアをつくり出していると訴えていた。
「しかし」と吉田さんは説く。
「弱肉強食の新自由主義経済のなかで、彼らは世界労働者なんです。日本を超えて世界経済と繋がっている。正社員じゃない彼らこそが、日本と世界――ふたつの大地に立っている。その視点を持っていないと、グローバリズムと渡りあえない。なぜ差別や貧困、テロはなくならないのか。まずは現代世界の“源流”を探らなければ」
神話崩し――。吉田さんが描く作品はそう呼ばれる。若い水俣病患者たちの自立と「性」を記録した『下下戦記』。宮沢賢治を「ニート」の先駆けと論じた『宮沢賢治殺人事件』……。
吉田さんは、200冊にものぼる古今の書物、マンガや信憑性のなさそうな「トンデモ本」までをも引いて、現代社会の“源流”を探る旅へ読者を誘う。
現代から古代。日本、ユーラシア大陸そしてアメリカ。時空を超えて宗教や経済、思想をも含めた歴史を読み替えていく。吉田流世界史のキーワードとなるのが、日本神話に登場する三本足の「八咫烏(やたがらす)」と海賊のシンボルである髑髏(どくろ)だ。驚くのは吉田さんの想像力である。
たとえば、日本のマタギ(狩猟民)は捕ったクマの心臓を十字に切って神に捧げる。吉田さんはその儀式とキリスト教を結びつける。キリスト教が「十字を切る」という行為の“源流”ではなく、洋の東西を問わず太古の狩猟民に共通する聖なる儀式だというのだ。あるいは、アダムとイブが食べた知恵の実であるリンゴは知識が詰まった人間の頭の暗喩であり、ヨーロッパの人間の歴史が「食人」からはじまったと語るのだ。
「オイオイ、ホントかよ」。そんな突っ込みを入れつつページをめくると、いつのまにか吉田流世界史の過激な物語にのみ込まれている。いままで常識だと信じていた物事を疑いはじめている自分に気がつくのだ。“世界史の闇のとびらを開く”きっかけとなった風景があると吉田さんはいう。9.11同時多発テロの追悼式典で旅したアメリカで、あるいは前著『王道楽土の戦争』の取材で訪れた旧満州国で、見上げた星空だ。
「古代の人々は夜空の星々を結びつけて星座を紡ぎ、多くの神話を語り継いできた。そしていまも星の配列を変えれば、新たな物語を生み出せるはず。視点を変えれば、隠された本質が見えてくるんです。