本書に描かれる古林(こばやし)恒雄氏は、30年間をビジネスマンとして中国で過ごしてきた。この稀有な日本人に出会ったとき、著者の山田清機さんはその魅力にすぐさま引き込まれたと振り返る。
「中国で自分の世界を必死になって切り開いた。その真っすぐな生き様が素晴らしかった」古林氏は名門企業だった鐘紡に入社後、同社の中国プロジェクトの多くを手掛けた人物だ。
現在は華鐘コンサルティングの総経理で、「中国ビジネスを行ううえで彼を知らなければモグリだ」と評されるという。例えば鐘紡時代につくり上げた合弁企業は20社超、華鐘コンサルティングでは900社近い企業の中国進出をサポート。いわば彼の軌跡は、日本企業の中国進出の歴史そのものだ。
「彼が中国ビジネスの第一人者になった理由は、日本人的な感覚とは異なる人柄にあったと思います。和を考えず、周りに対してずばずば主張する一方で、誰に対しても分け隔てがない。その性格が“味方以外は敵”という中国社会にぴたりと合った。日本社会においては短所となる資質を、すべて中国での長所に変えた人なんですね」
古林氏には「上海の鉄人28号」という愛称がある。68歳の今も、重いリュックを背負い、深夜まで働くと、夜の上海の街をどこまでも歩いて帰宅する。
「話をしていると、中国の経済成長のエネルギーを全身で吸収している迫力を感じます」
そうして古林氏の半生を聞きながら、山田さんは中国ビジネスにおける彼の基本理念や、成功のための原則を見出していく。
「日中ビジネスはこの数年で内需型に様変わりしています。安い人件費でものを作り、欧米に売るというモデルは終わり、今後は中国で作った製品を中国で売るアイデアが求められる。その際に必要な考え方や中国におけるルールを、古林さんは30年間にわたって体感してきた」
その変遷を描いた本書は評伝であると同時に、日本企業の中国進出のイロハを描いた実直なビジネス書でもある。