組織の中の知識を生かすには、「全員が同じ情報を知っている」よりも、「誰が何を知っているかを知っている」ほうが、組織全体のパフォーマンスを引き上げるという。「誰が何を知っているか(=whoknows what)」という概念を「トランザクティブメモリー」という。この概念は1980年代に社会心理学者のダニエル・ウェグナー教授が提唱した。組織が大きくなってくると、社員全員が同じ知識を共有するのは難しくなる。だから「誰が何を知っているか」が重要になるのだ。
「昔の日本企業には、特定の商品やサービスに特別詳しい人が、社内のどこにいるのかを知っている『社内の御用聞き』がいた」と早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏は話す。たとえば、ある人が天然資源開発の事業を企画する際、化学の知識が必要なら、その専門家がどの部署の誰かを「社内の御用聞き」に教えてもらうことで、適切な需要見込みを立てていた。だが、こうした「社内の御用聞き」はいまでは「暇な人」扱いされて減ってしまった。
ところが、最近の欧米トップ企業の中には、将来の経営幹部候補をトランザクティブメモリー専門職に充てる人事を行うところが出てきているという。優秀な人でないと、「この人になら、自分の知識を伝えたい」と思ってもらえないからだ。
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