先延ばしという名の“思考”の時間

先延ばしをしている間、たとえ遊んでいても課題は頭の中で動き続ける。つまり、アイデアは育っているというわけだ。課題を見据えて先延ばしをしていることで、関連する情報を取り込みやすくなり、頭の中でぐるぐるとアイデアを咀嚼して、じっくりと考えることができる。またあるとき別の考えがくっついて、突飛な考えが生み出せるかもしれない。普段は気にもとめないニュースも、頭の片隅にあった情報に関係することでピンと反応したり、人の話から「アレだ」とひらめいたりもする。

「君が先延ばしと呼ぶものを、私は思考と呼ぶ」

映画『ソーシャル・ネットワーク』や『スティーブ・ジョブズ』の脚本家アーロン・ソーキンはこんな風に語っている。先延ばしは、ときに生産性の足を引っ張るが、創造性の面では追い風となってくれる。そのため、多くの偉人にみられる特徴は、「素早く着手し、仕上げに時間が掛かる」ことだという。常に課題を頭に入れて、それに関する情報に敏感に反応することが大切になるわけだ。

インターネットの黎明期には、ネット上の場所取り合戦で早く動いたものが有利だった。ところが、最近では少々毛色が変わってきた。先行事例を見て、そこから発想を得たり改良したりすることで、より人気を博することもある。実は、市場を開拓した先行企業と、それをまた何か別の事業に仕立てた後発企業を比べると、先行の失敗率が47パーセントであるのに対し、後発は8パーセントですむという。

グラントは「Googleの前にはYahoo!があり、Facebookが ソーシャル・ネットワークを世に出したのは Myspaceなどのリリースを見てからです。 誰かのアイデアに基づいて、その不足を改良するほうが、ゼロから生み出すより簡単であり、より考える余力が生まれるためにさらに独創的になることもあります」としている。

独創的であるためには一番乗りである必要はなく、他と差別化して優れていればいい。そのためには、まずは着手し、そこで先行事例を探したり新たな製品を待ったりして、さらにアイデアを熟成させる。吟味してひと手間加え、異なるものに仕上げる方法だってあるだろう。

ピカソの言葉「優れた芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」を引用して、スティーブ・ジョブズは「だから僕たちは、偉大なアイデアを盗むことに関して恥じることはなかった」と言っている。だれかが輪郭をつくったところで、そこにある輪郭に気づき、どんな彫刻にすべきかじっくり考えて緻密な彫刻をほどこして、完璧に仕上げる。それだって開発だ。

では、発想をし、それを生かすために必要なのは具体的にどんなことだろうか。