「工学部」出身者がリストラの標的に

大学については、よく「理系は文系よりも就職に有利」などと聞かれるが、誤解がある。まず理系の就職率は決して高くない。なかでも「理学」(数学や化学など)は文系と同じかそれ以下だ(前ページ図3)。「農学」や同じ「理学」でも生物学などはやや高いが、これは就職できなかった学生が仕方なく大学院に進んでいるだけで、就職率の高さは見かけ上のものにすぎない。結局、理系で就職に有利といえるのは「工学」(機械工学や電気通信工学など)だけなのが実状だ。

その工学部も採用の中心はメーカーで、入社後も安心できない。大手メーカーでは、工学部の出身者を数百人単位で採用する。出世コースに乗れる人間はごく少数で、多くは製造工程に近い部署で働く。そうした末端のエンジニアは、30代後半に技術系に残れるかどうかの選抜を受ける。3割程度は技術系から出され、教育・労務・購買・システムといった部署をローテーションすることになる。こうした専門性をもたない「エンジニア卒業組」は、これまで大量にリストラされているのだ。

では文系はどうか。大企業の採用担当者の間では、最近、MARCHクラスだけでなく、早慶クラスに対しても厳しくみるようになっている。なぜなら一般入試を経ず、AO入試や学校推薦による入学者が、私立では半数近くを占めるからだ(前ページ図2)。

代わって評価が高くなりつつあるのが地方の国公立大学だ。総合的な学力を持つため、入社後ものびしろが大きいと期待されている。たとえば熊本大学では、3月に優良企業の個社説明会を集中実施している。2014年度は約160社が熊本に集まった。就職実績も高い(図4)。

また地方の国公立大学は、各地域の「ミニ東大」として、県庁や地銀、電力、鉄道、新聞、テレビなど地元の優良企業にも強い。こうした企業の待遇は東京の大企業と比較しても遜色がない(図5)。東京でリストラに怯えながらあくせく働くのではなく、地方で落ち着いた生活を送る。そういう選択肢も教えたい。

雇用ジャーナリスト 海老原嗣生
1964年生まれ。リクルートグループで20年以上、雇用に関する取材、研究、提言を手がける。リクルートキャリア社のフェロー(特別研究員)の第1号としても活躍。同社発行の人事・経営誌『HRmics』の編集長を務める。
(星野貴彦(プレジデント編集部)=文)
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