自分が仕事をコントロールする
多忙な日々を送っているのはサラリーマンだけではない。筑波大学附属病院総合診療科の講師の吉本尚氏は患者の診療、学生の講義、論文執筆などのほか、2017年度から日本で正式にスタートする「総合診療専門医」教育の最前線で活躍している。だが、これまでは仕事に追われるままに朝から晩までがむしゃらに働き、それこそ24時間働けますかという日々を送っていた。
自分の研究や教育にもっと力を注ぎたいのに前に進めない漠然とした不安を少しでも解決したいと考えて取り入れたのがGTDの手法だった。
「以前から意識して課題把握はやっていたのですが、ときどき漏れがあり、完璧に収集できていないことに気づきました。それからルーチンワークをいつやるか決めずに気分しだいでやっていました。やはり自分でルールを決めてタスクとして実行することで仕事に振り回されるのではなく、自分で管理するという姿勢が大事だと感じました。また、論文をまとめるような重要だが、緊急性の低い課題は、実現までのプロセスを分解し、最初の一歩は何をするべきかと見極めることがすごく大事なのだと痛感しました」(吉本氏)
今ではあらゆることを把握し、とるべき行動などのタスクを管理し、実行していくためのツールとしてノートとメールの受信ボックスを使っている。ノートを使って気になることをすべて書き出し、項目ごとにやるべきことをリスト化する。一方、専用のメールの受信ボックスを作り、そこに自分で考えたとるべき行動を携帯などのメールでボックスに送信し、リスト化している。
ルールを習慣づけることで全体の進行がノートとボックスを見てわかるようになり「やるべきことが漏れることがだいぶ減った」と言う。
「仕事の効率化が進み、プロジェクトなどは以前の1.5倍ぐらいの内容をこなせるようになったと思いますし、仕事にコントロールされるのではなく、自分がコントロールしている感覚があります。仕事の余力が生まれたことで、長期的にやりたいと思っていた研究に割ける時間も作れるようになりました」
たとえば講義に関して新学期前に1年間の教育を振返り改善する作業を行うが、例年だと直前になって一年間の教育資料を検証していたが、最近は2~3カ月前から資料の検証に着手する余力も生まれたという。仕事以外のプライベートでも効果を実感している。
「以前は土日もめいっぱい使って仕事をしていましたが、できれば家族と過ごす時間を作りたいと考えていました。半年前から学会など特別の会合を除いて土日は基本的に仕事をしないと決めています。もちろんその分、平日に集中して仕事をしていますが。おかげで子供と過ごせますし、夜の8時半には寝るので健康的なリズムに戻ることができます」
紹介した3人はGTDの手法をうまく活用して自分に合った仕事の成立術を構築し、以前に比べて仕事の効率化や余力さえ生み出している。これまで抱えていた不安とストレスから解放されたという人もいる。
自分の仕事のスタイルを一度振り返り、どのようなやり方が自分にとって効率的なのか。その一つのツールであるGTDの手法を実践することで働き方が大きく変わる可能性もある。