消化器外科医として長年のキャリアがあり、がんの手術も数多く手がけてきた萩原優先生は、患者さんへの心のケアが病後の状態に大きく関係していることに気づきます。自らも心のケアのできる代替医療を学ぶうち、病気の原因は、実は患者さん本人が知っているのだと考えるようになったといいます。現在、自らクリニックを開業し、病気に悩む人のカウンセリングを行っている萩原先生にお話をお伺いしました。
心に働きかける代替医療
聖マリアンナ医科大学病院で、30年以上にわたり消化器外科医として勤務しました。当時は、今とは医療システムが違って、長期入院ができたので、がんの患者さんなど、最期まで看取ることもよくありました。聖マリアンナ医大病院では、がん患者さんのためのチーム医療が充実しており、医師、看護師、薬剤師に加えて、牧師や哲学の教授らがチームを組んで、患者さんの心のケアを行っていました。チームのケアにより末期がんの患者さんが死を受け入れて明るくなっていく姿を見ているうち、心のケアを無視できないと考えるようになり、自ら代替療法を学ぶようになりました。
特に人の心の内側や、潜在意識を扱った療法に興味を持ち、サイモントン療法(米国の医師が開発したがん患者向けの心理療法)や催眠療法(催眠を用いた心理療法)などのイメージ療法(クライアントの想像力を利用した心理療法)を学びました。そして、2007年、心のケアを中心としたカウンセリングのできるイーハトーヴクリニックを横浜市内に開業したのです。
催眠療法が面白いのは、「答えは必ずその人が持っている」という前提に立って進めるところです。催眠療法というと、悪用されたり、騙されたりすると考えるかもしれませんが、そんなことはありません。催眠にかかる側の脳波はシータ波かアルファ波の状態になりますが、これはリラックスした状態であって、睡眠状態ではありません。意識があり、知性や理性がちゃんと働いている状態なので理性で拒否もできます。
リラックスした状態のとき、人は莫大なエネルギーを発揮することができます。スポーツ選手がここぞというときに一発が出せたり、完璧な演技ができたり、アーティストが傑作を生み出したりできるのも、リラックス状態にいるときです。ゾーンとかフローという表現はまさに催眠状態のことです。
実は、私たちは日常的に催眠状態に陥っています。朝起きた直後も催眠状態ですし、習慣的にやっていることはすべて催眠状態で行っています。たとえば、自宅から最寄り駅までの道のりなんて、別のことを考えながらでも行けますよね。これは催眠状態で移動しているからです。映画を見て感情が揺さぶられたり、小説を読んで感動しているときも催眠状態です。電車の中で気持ちよく揺られているときも、料理や掃除、洗濯をしているときも催眠状態にいるのです。また、集中して作業しているときも時間の経過が早く感じられることがありますが、こおときも催眠状態です。
催眠状態にいるときは無限の可能性の宝庫である潜在意識へのアクセスがしやすくなっています。一方、表層意識である顕在意識には、これまで積んだ体験から、さまざまな先入観や固定観念が蓄積されています。顕在意識が私たちの心を閉ざしたり、囚われたり、ブレーキをかけたりして、本来の生き方をしにくくさせているのです。肩に力が入ったり、力んでいるときは、私たちが顕在意識で物事を進めようとしているときです。