富を創出してこそ「富の分配」も可能に

日本は「富の創出」どころか、「富の流出」という大問題を抱えている。メーカーは国内の高賃金を嫌ってさっさと海外に出ていった。もはや国内に滞留するのはサービス業だけ、と思うかもしれないが、それも認識違いだ。

たとえば、スーパーで売っている鰻。日本で焼くと高くつくから、今はほとんど中国で焼いている。鰻をさばいて焼いて、タレにつけてパックして、スーパーのラベルと値札まで中国でつけて日本に送ってくる。焼き鳥も同じような過程を経て店に並ぶ。

つまり商品の産地だけではなく、店内作業も海外に移っているのだ。日本のスーパーの店頭で行われるのは商品を陳列するだけ。これはサービス業における「雇用の喪失」である。時給1000円になれば、それがもっと徹底される。アメリカのハイパーマートのように、陳列棚に並べないで、輸入した箱の中から商品を勝手に持っていけ、という感じになる。

最低賃金1000円などというバラマキ公約は、必ず雇用に、つまり失業率に跳ね返ってくるのだ。民主党の若手に、「キミたちは雇用を保証したいのか、賃金を保証したいのか、どっちなんだ?」と聞いても答えが返ってこない。こんな単純なことが政治の世界では理解されていないのだ。

そもそも民主党の大きな問題の一つは、「誰かが富をつくっている」という前提に立っていることだ。連合がバックにいる彼らにとって富をつくり出す側、企業や金持ちはどちらかといえば対峙する相手だ。

民主党の連中は「3つの距離を置く」と言う。一つは中央官僚から距離を置く。大変結構なことだ。政治家や官僚は富の分配しかやらない。二つ目はアメリカと距離を置く。これも結構なことだが、中国にひざまずくような外交だけはしないよう注意してほしい。前述の拙著でも詳述したが、アメリカを不用意に怒らせれば外交は八方塞がりとなる。気がついたらアジアやEUとの距離が縮まっていた、という老獪なやり方でなければうまくいかない。