500万部を売り上げた世界的なベストセラー『エクセレント・カンパニー』の著者、トム・ピーターズ氏。労働環境が激変する中、これからの企業は、リーダーや組織の人材はどうあるべきか。ラーニングエッジ代表の清水康一朗が聞いた。

マッキンゼーをクビにされた理由

――トム・ピーターズは1974年から81年までマッキンゼーに在籍し、数字や戦略、機構といったハード面に偏重することなく、人に焦点を当て組織のあり方を探った。そこで唱えられた説は、まるで予言のように的中し、今では多くの企業、ビジネスマンにとっての指標となっている。しかし、当時はその新しさゆえにマッキンゼー内ですら反発を受け会社を追われた。周囲の理解が得られないとき、不安はなかったのか。
経営コンサルタント トム・ピーターズ氏

私がマッキンゼーに在籍していた頃、もう30年も前の話だが、企業戦略を構築するにあたって、組織運営を考えるために、同僚とあるフレームワークを考案した。そのフレームワークは「7つのS」と呼ばれている。Sはそれぞれ、戦略(Strategy)、機構(Structure)、制度(System)、人(Staff)、能力(Skill)、経営スタイル(Style)、共通の価値観(Shared values)を表す。

それまで、企業は戦略、機構といったハードウエア部門にばかり目を向けていた。しかし、私たちが7つのSを提唱したことで、ソフトウエアもまた重要であり、なおかつハードウエア以上に難しいものであるというふうに認識は変わっていった。社員は機械のパーツを入れ替えるように、前任者と同様の働きをするわけではない。だから組織は順応し、姿を変えていく必要がある。ハードウエアにしか注力しない企業はいつしか破綻する。逆に言えば、組織のソフト部分に気を配り、企業の成長のために人こそが重要な資源であると理解している企業であれば、貪欲に知識を求め、新たな出会いを探し、仲間と励まし合い、高め合い、価値を創造できる人材を、簡単に機械で置き換えることはしないだろう。

私はマッキンゼー時代、それまでの同社の数字に着目した分析をメーンとするMBA的方法論に過度に焦点を当てることに反発した。次第に私は疎まれ、ついにはクビになった。しかし現在の状況を考えれば、自分の考え方が間違っていなかったと確信を持っていえる。