2015年に公開されたジョージ・クルーニー監督・主演映画『ミケランジェロ・プロジェクト』。第二次世界大戦の終戦間際に発足した特殊部隊「モニュメンツ・メン」(美術の専門家で軍務経験のない熟年者で構成)の活躍を描いたエンターテインメントだ。
第二次世界大戦時、ナチスは莫大な美術品をヨーロッパ各地から略奪した。だが敗北を悟ったヒトラーは、すべてを破壊し燃やし尽くす「ネロ指令」を出した。もし、モニュメンツ・メンの活躍がなければ、ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』『最後の晩餐』、ゴッホの『ひまわり』、ミケランジェロ『聖母子像』といった芸術品はこの世になかったかもしれない。
映画の原作は、緻密な取材に基づいた壮大な力作である。「終戦から70年。数多くの記録が残っているものの、まったく知らされなかった事実もある。それを世界に伝えたかった」と著者。モニュメンツ・メン20名(うち女性は3名)に綿密な取材を敢行した。
「フィレンツェの美術館で、閃いたのです。戦争の惨禍を経て、これだけの美術品が残っているのはなぜか。誰が救ったのか。それは誰に聞いてもわからなかった。だから自分で調べることにしました」
今や関係者全員が高齢者だ。記憶に曖昧な部分もある。そのあたりの史実の考証にも細心の注意を払ったという。本を上梓し、映画化された今でも、取材時のワクワク感を持ち続けている。
「歴史の皮肉といえばいいのでしょうか。もしヒトラーが芸術に無関心だったら、美術品は爆撃され、モニュメンツ・メンの出番はなかった」
反対に、一人一人の国民や兵隊の生命を最優先する民主主義国家では、美術品の保全は、それが世界遺産級のものであっても、どうしても後回しになってしまう。
「ヒトラーが略奪品を大事に保存し、カタログまで作って愛したからこそ、私たちは『モナ・リザ』や『聖母子像』を鑑賞することができる。ヒトラーが芸術を愛することに費やした時間を、戦争に注力していたら……歴史が変わっていたのかもしれません」
美術品が放つ輝きが、独裁者の栄華を食い止めたのだろうか。そんな想像力を喚起する作品である。歴史の持つ様々なパラドクスに思いを馳せながら、モニュメンツ・メンの功績を熟読玩味したい。