「異常」にやらないと勝てない

だいたい、なぜ原沢は負けたのか。コンディションなのか、五輪選考会というプレッシャーなのか。技がまったくでなかった。動きが硬かった。「プレッシャーがあった」と原沢は言ったが、五輪本番でのプレッシャーはこんなもんじゃない。原沢もわかっている。

「それをはねのける精神力だったり、自信になる実力をつけたりして、オリンピックには臨みたい。一本をとりにいく柔道をしたい」

では、そのためにはどうすべきか。山下泰裕・全日本柔道連盟副会長兼強化委員長は「自分の柔道をやりきること」と言った。

「今回は少し慎重になっていたと思う。柔道自体を変えることはない。自分の力を出し切る。出し切れば、リオ五輪の金メダルに近づくことになります」

原沢本来の柔道、タフネスさをもってすれば、五輪の決勝戦まではいけるだろう。問題は、王者に君臨する2012年ロンドン五輪優勝のテディ・リネール(フランス)である。リネールを倒すためには、精神的にも、技術的にも、体力的にも、もう一段レベルアップしなければなるまい。

井上康生・男子五輪代表監督は「普通のことをやっていてはリネールを破ることはできない」と言い切った。

「ここからどう異常なことをやっていくのか。体力においても、技術的、精神的なものにおいても、異常なことをどれだけ求めていくのかがポイントになります」