高校に進学することなく京都大学に入学
「はじめの講義のとき、私が皆さんの前で自己紹介をします。高校に進学することなく、京都大学に入学しました、と話すのです。驚く人もいれば、ドラマなどを観て、知ってくれている人もいます」
中央大学教授の磯村和人さん(51歳)が語る。専門分野は、経営学や社会学。現在は専門職大学院(国際会計研究科)で、主に戦略、組織変革、リーダーシップなどマネジメントに関することを社会人に教える。
磯村さんは、1980年、豊橋市(愛知県)の公立中学を卒業後、当時、世間ではあまり知られていなかった大検(文部省認定大学入学資格検定試験)を経て、1983年、現役で京都大学経済学部に入学した。高校には進学をしなかった。
中学生のとき、私服を着て、3年間通い続けた。制服を着ることは1日もなかった。英語塾を経営する父親(故人)の考えでもあった。父は、管理教育が子どもの正常な学習や学びを妨害するととらえていた。
「私たちは、高校を否定していたわけではないのです。中学校の管理教育に疑問を感じていたのです。担任や学年主任、教頭、校長先生などが家に来ます。“制服を着ないと、内申書の点数が悪くなって、高校に進学できなくなりますよ”と言います。私は成績が悪いということもなく、非行生徒でもなかったので、理解をしてくれる先生や生徒はいましたよ 」
当時、全国の公立中学校では、文部省(現文部科学省)のもと、管理教育が徹底されていた。生徒の髪形や制服、持ち物など、隅々まで管理をしようとした。教師による体罰もエスカレートする。
一方で、校内暴力が吹き荒れ、生徒らの非行や犯罪が大きな社会問題になっていた頃だった。管理教育のメッカともいわれていたのが、愛知県だ。管理教育に抵抗する磯村さんの家庭の奮闘を描いたのが、1984年に放送されたドラマ「中卒・東大一直線 もう高校はいらない!」(TBS)である。俳優の菅原文太さんや坂上忍さんが親子役で出演し、大ヒットとなった。
ドラマでは、磯村さんの兄が主役となる。兄もまた、中学の管理教育に疑問を感じ、私服で通学していた。高校に進学することなく、大検を経て、現役で東大理III(医学部)に合格した。
磯村さんの父の著書『奇跡の対話教育』(光文社)によると、兄は父と話し合い、制服に近い服を着て通学をしたこともあるという。学校は、それも認めなかったようだ。
兄は、私服で3年間を押しとおした。弟の磯村さんも、制服を着ることはなかった。兄弟は、内申書をちらつかせ、従わせようとする中学校に屈しなかった。
磯村さんは当時を思い起こし、説明する。
「兄は、父の教えに忠実でした。私は、うちの家庭教育は少し変わっているのかな、と思うときはありました。3年間制服を着ることなく通学すると、この生徒には言っても仕方がないなと学校からは思われていたようですね」