弘兼憲史の着眼点

▼一方的な「こだわり」より、利用者目線の「世界一」を

澤田さんはぼくよりも4つ年下です。経歴を拝見して驚いたのが、大阪の高校を卒業後、ドイツの大学に留学していること。当時のぼくにはドイツに留学するという選択肢は、まったく考えつきませんでした。当時から、澤田さんの発想は常人の枠を超えています。

頭に浮かんだのは、上方商人という言葉でした。古くから商業が盛んな大阪は、合理主義の街です。形式やプライドは二の次。どうすれば儲かるか。そんな実利が重んじられてきました。

風車や運河、石畳など、ハウステンボスの街並みは本格的です。ただしそれは「過剰投資」だったのでしょう。園内に「パレス ハウステンボス」という建物があります。17世紀に建てられたオランダ王室の宮殿を、忠実に再現したものです。竣工にあたっては、外壁のレンガの目地幅が、本国の宮殿より2ミリほど広かったことから、4000万円をかけて再工事をしたそうです。本物を追求するという姿勢は評価できますが、そうしたこだわりは、集客につながるものでなければ、結局は無駄なコストになってしまいます。

弘兼「仕事に夢中になれるのはなぜですか?」 澤田「自分が楽しいことをどんどんやることですね。その結果、スタッフも楽しくなりますし、お客さんも楽しくなる」

テーマパークとはなにか。それは「非日常」を演出する場所です。だから「世界で唯一」「日本で初めて」といったものに人が集まる。ハウステンボスは「オランダ」や「ヨーロッパ」にこだわってきましたが、そこにこだわりをもつお客さんは、おそらく少数だったのではないでしょうか。

澤田さんが社長となってからのハウステンボスには何でもあります。漫画やアニメのイベント、韓流スターの特設シアター、宝塚OGによる歌劇ショー、温泉施設におばけ屋敷まで。どうすれば儲かるか。澤田さんの合理的でずば抜けた発想がうかがえます。

▼これからの「澤田王国」は新規ビジネスの実験場に

澤田さんが「ハウステンボスはモナコ公国と同じだけの広さがあるんです」と話していたのも印象的でした。

園内は私有地ですから、いろいろな「実験」も自由にできます。澤田さんは運転免許を返上したそうですが、園内では電気自動車で移動しています。規制が検討されているドローンも飛ばせますし、公道での走行が禁止されているセグウェイも走っています。これから植物工場を造る計画もあるそうです。

園内のビールスタンドでは、王様のような格好をした澤田さんの絵が飾られていました。そう、ハウステンボスは、「澤田王国」なのです。

2015年7月からはロボットが接客をする「スマートホテル」も稼働します。海外メディアからの取材申し込みが殺到しているそうです。「澤田王国」のこれからがますます楽しみです。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 門間新弥=撮影)
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