赤字部門同士をくっつけても何の意味もない
人材がいて、彼らが必死に顧客のニーズに基づいた商品を開発し、必死にコストダウンして生産性を高め、必死になって販路を開拓する。会社というのはそうした人の魂と情熱が幾重にも積み重なって成り立っている有機体である。それを生き物として扱わずに、まるでレゴブロックのように組み合わせて、「大きな戦車ができました」というのが産業革新機構のやり方だ。それで生き残れるなら、ハイアールなどに負けていない。
液晶事業はジャパンディスプレイとくっつけるという、これまたレゴ的発想である。ジャパンディスプレイはソニー、東芝、日立製作所の液晶ディスプレー事業を統合してできた会社で、主導したのは産業革新機構。つまり寄せ集め部隊であって、シャープと統合しても有機的なメリットは生じない。多少スケールアップしても、中国や韓国のディスプレーメーカーには価格競争力で敵わない。中国勢は去年と今年で液晶に1兆円投資するといわれている。清水の舞台から飛び降りるつもりで1000億円投資する日本のメーカーとは桁が違うのだ。
さらにシャープのソーラー事業は昭和シェル系のソーラーフロンティアとの統合案がある。ソーラーシステムはかつて日本とドイツが世界をリードしていた。しかし再生可能エネルギーのブーム到来とともに、中国がソーラーパネルの製造機械を日本などから大量に買い込んで、安価なシステムをつくって世界中にダンピング輸出するようになった。今や中国メーカーが圧倒的に強くて、ドイツ勢は潰れてしまうし、シャープのソーラー事業もソーラーフロンティアも大赤字だ。しかもシャープの主軸は家庭用ソーラーで、ソーラーフロンティアは産業用メガソーラー。技術的あるいは販売チャネル的な共通項は何もない。
レゴブロックの発想で赤字の白物家電は東芝に、赤字の液晶パネルはジャパンディスプレイに、赤字のソーラーはソーラーフロンティアにくっつけると最後に残るのは複写機・プリンター事業である。シャープで唯一利益を出している事業であり、産業革新機構はこれを中核に立て直すというのだが、あまりに世の中の情勢を知らなすぎる。
シャープの複写機・プリンターが利益を出しているのは、キヤノンとリコーが価格の傘を貸してくれているからだ。紙送りのようなアナログ技術とデジタル技術が融合したこの分野は今でも日本の独壇場である。しかし業界的には大きな構造転換期を迎えていて、MPS(社内に散らばる複数のプリンター、複合機をうまく運用管理してコスト低減につなげるサービス)と呼ばれる事業領域に急速にシフトしている。大手に比べてこの領域のマンパワーが圧倒的に不足しているシャープに、これからの激変期を乗り越える算段があるとは思えない。