暗い所でもサングラスをかけている理由
【為末】「何かに熱中する」っていうのは、一般的にはなかなか難しいのかもしれないですね。
【みうら】「熱中している人」ってやっぱり不自然な人だと思うんですよ。ちょっと好きになって飽きるほうが自然ですもんね。今はみんな「自然体」が好きじゃないですか。不自然なことを極度に嫌うでしょう。70年代まではたくさんいたんだけど、僕が憧れていたのは「レッツゴー不自然」みたいな変な人。暗いのにサングラスかけているような……。僕もそうやって不自然なことを自分に「課している」んですね。でも為末さんこそ、ずっと走り続けるなんてどう考えても不自然ですよね。
【為末】そうですね。走ることって身体に良いとも限らなくて、実際、体脂肪率が5%を切ってくると、疲れて風邪をひきやすくなったりするんです(笑)虚弱体質ですよ。そこまでしてなんで走るのかと。そのときは没頭してて、「これしかない」という感じだったんでしょう。でも没頭することを知っている人ほど、ふっと冷めるときの「冷め感」って半端じゃないですよ。その「冷め感」との戦いをどうするかということとハードルを越えていくことってなんとなく近い気がするんです。
【みうら】ハードルは「絶対飽きないこと」ですよね。
【為末】でも、どんなに熱中なり没頭なりしていても、ふと「バカらしくなる瞬間」があるじゃないですか。
【みうら】ありますね。「何してんだろう」っていうのが(笑)
【為末】そのときの自分とどう戦うか。
【みうら】そこですよね。僕は「そこがいいんじゃない」という呪文を考えたんです。するとマイナスがプラスになるんですよ。現状よりも「2倍いい」くらいの状態に瞬時に到達できる呪文。そこ「が」いいわけだから。
【為末】その言葉にはどうやって辿り着いたんですか。
【みうら】ローリングストーンズの“IT'S ONLYROCK'N ROLL(But I Like It)”という曲があって、「たかがロックンロールじゃないか。(だけど好きだよ)」って話なんですよ。「たかが」とマイナスにふっておいて「だからこそ好きなんだ!」と一気にプラスにもってくる。だいたいストーンズのメンバーって何千回も何万回も“Satisfaction”をやってるわけですよ。もう十分満足していいかげん飽きているはずなのに“I can't get no satisfaction”なんて歌ってるんですよ。
【為末】そこがいいんだ、と。
【みうら】そう。当然飽きているはずだけど、「飽きてない!」って言い張る呪文ですよね。そこには“but I like it”の思想があるんですよ。昔はロックンローラーなんて過剰にやりすぎて30歳くらいまでに死んでたでしょう。「セックス、ドラッグ、ロックンロール」とかいって。その過剰にやるtoo much感が面白いと教えてくれたのが、僕にとってはロックだったんです。