住宅は一生に一度の買い物だが、本当に「一生」暮らせるのか。年を取ってからも安心できる家選びと手直しの新常識をプロに聞いた。

家具が大型化、狭い和室はますます狭く

住宅を買うときは、体が元気であることを前提に選びがちだ。しかし、70歳を過ぎて体力が衰えてくると、若いときには何でもなかったものが牙をむく。

高齢者になると、どのような住宅が暮らしにくくなるのか。住まいのアドバイザーである中川寛子さんに具体的な問題点を指摘してもらった。真っ先にあがったのは、段差の多い家だ。

「バリアフリー基準で、床の高低差は5mm以下と定められています。しかし一般的な日本の住宅には、敷居や和室との境目など数cm単位の段差がいたるところにあります。この程度なら平気と考えるのは間違い。高齢者は身体機能の低下にともなってすり足で歩くようになるので、わずかな段差でもひっかかりやすい。高齢者は転倒しただけでも骨折等の重傷になる場合があるので要注意です」

室内でもっとも大きい段差といえば階段だ。建築基準法で蹴上げ(段の高さ)は23cm以下とされているが、昇りやすいのは11~16cm。それ以上だと階段の昇り降りがつらくなる。

「蹴上げの高さだけではなく、形状によってもリスクは異なります。一直線の階段は転倒時に下まで落ちてしまいますが、踊り場で折り返す階段なら途中で止まるため、けがを最小限におさえられます。ただ、折り返す階段でも、平らな踊り場がなく、らせん状に段が続く形状だと、かえって危険。内側の踏面(階段の平面)が短く、足を踏み外しやすいのです」

続いて中川さんが指摘したのは、廊下の幅員だ。日本の住宅は、柱と柱の間が90cmで建てられるケースが多い。内のりがあるので、廊下の幅員は78cm前後。この幅だと、車椅子生活になったときに動きづらい。

「車椅子の幅は介助用で約55cm、自走式の標準型で約63cmです。自走式は腕が車椅子の両脇に出るので、廊下の幅員が狭いと腕をぶつけるおそれがあります。かろうじて直進は可能でも、曲がるのは困難。廊下の側面に部屋の出入り口がある間取りだと、車椅子で出入りできない可能性もあります」

要介護の生活を想定すると、部屋の広さも気になるところ。車椅子で動くとか介助者がサポートすることを考えると、広いスペースを確保することが理想だ。しかし、日本の住宅は六畳間が主流で、十分な広さがあるとは言い難い。

「同じ六畳間でも、昔は和室で物を置かずに生活する人が多く、それなりに動きやすかったと思います。しかし、いまは洋室化してベッドやタンスなどの大型家具が置かれるようになり、動けるスペースが減ってしまった」