進捗報告、来期の予算交渉、コスト削減提案、新規事業企画……数字で相手を動かすポイントを経営トップが指南する。

挑戦的な目標は必ずしもよくない

当社は2020年度までの成長目標として、連結売上高5兆円以上、営業利益率8%以上を掲げています。売上高の目標を5兆円以上に設定したのは、4の次が5だから。13年度、私が社長に就任する直前の決算が4兆543億円だったので、単純に、次は5を目指そうというわけです。

三菱電機社長 柵山正樹氏

もちろんキリがいいことだけが理由ではありません。20年までに5兆円を売り上げようと思ったら、3%の成長が必要。世界のGDP成長率は3~4%ですから、当社も同じ勢いで成長していけば十分に届く目標です。

営業利益率は、GEやシーメンスといった海外の競合を参考にしました。13年度でいうと、GEは16%で、シーメンスは7%。われわれもそのレベルを目指したいという思いで、8%以上に決めました。

もっと挑戦的な目標を立ててもいいのではないかという声をいただくこともあります。しかし、私はストレッチな目標を立てることが必ずしもいいことだと思いません。きれいな花を咲かせるためには、まず根っこを大きくすることが大切です。根っこを育てずに見えるところだけ大きくすると、強い風が吹いたらすぐ倒れ、日照りが続くとすぐ枯れる木になってしまう。それでは花を咲かせることがかえってリスクになってしまいます。

目先の数字より根っこが大切だと痛感したのは、香川県丸亀市にある受配電システム事業所の所長に着任したときです。当時、この工場は大赤字で、立て直しが急務。そこで工場のみなさんと面談したのですが、「もっと頑張れと言うのですか」と言われてしまった。つまり短期的な結果を求められるあまりみんな無理をしていて、人の心が疲れていたのです。

このままではいけないと思って始めたのが、「HIT123(ヒット・ワンツースリー)」という活動です。HITのHは配電(受配電システム事業所の略称)、Iはイノベーション、Tはトランスフォーメーションで、ホームランを狙うよりシングルヒットを積み重ねていこうという意味も込めています。数字にも意味があります。ワンは製品価値世界一、ツーは生産性2倍、スリーはリードタイム3分の1です。短期的に業績をよくするには、コスト削減が手っ取り早い。しかし、中長期で見れば、お客様に認められる製品をつくることや、生産性を高めることが大事です。また工場内の仕掛りをなくせば財務的なロスを減らせるので、リードタイムの短縮も目標に掲げました。

私は「HIT123」のアクションプランができた後にすぐ離任しましたが、3年目には黒字化して、以後はいい業績が続いています。もしあのとき無理してV字回復を目指していたら、社員の士気が下がり、状況は悪化していたかもしれません。